不動産投資における法人設立の目的 節税か、資産形成か

不動産投資において、法人を設立するなら、目的を最初に固めましょう。
資産形成なのか、節税なのか。

不動産投資においては、法人を設立し、その法人で物件を保有するということが
よく行われます。

しかし、大地主もサラリーマン投資家も同じように法人を設立するのですが、
その法人の使い方は両者で大きく異なります。

この部分を混同している人が多いので、整理しておきましょう。

法人を節税のために設立する場合

書店を除くと、多くの本で「法人で不動産投資をしましょう」という記載がありますが、
その大半で書いてあるのが、「節税」を目的としています。

管理会社型、転貸(サブリース)型、所有会社型の3パターンは多くの方がご存知でしょう。

・役員報酬で所得分散!

・倒産防止共済や生命保険で簿外資産を形成!

・賃貸マンションを社宅にして節税!

・経費参入の幅が個人よりも広い!

・株式は相続税対策が容易!

これらは、実際効果が非常に大きいので、導入できる人は導入すべきです。

これらのスキームの基本的な構造は、個人に入っていた家賃収入の一部または全部を
法人に移転し、これによって個人から法人に移転した収益を、役員報酬等の経費を
計上することで打ち消すとともに、低い税率で別の個人に移転する。

というものです。簡単に言うと、法人で経費を計上しまくって節税するのです。

しかし、勘違いしてはいけないのは、これらの節税方法は、資産家やかなりの高額所得者
を前提としているということです。

すでに多くの土地や金融資産を有する人は、法人でガンガン節税すべきです。
しかし、サラリーマン投資家がその真似をすると後悔することになるでしょう。

法人を資産形成(法人を大きく育てる)ために設立する場合

多くの投資家は、これから資産を築いていこうと考えているはずです。

その場合、その法人で1棟購入してそれで終わりというわけではないでしょう。

追加で物件を取得し、法人の規模を拡大していきたいと考えているはずです。

この場合、最初は個人属性に依存した借り入れだとしても、いずれは個人属性
ではなく法人単独の信用で借り入れを実行できる状態をめざさなければなりません。

個人属性依存の借り入れは、何をどうやっても限界があるからです。

その時、資産家がするように、法人で経費を計上しまくるとどうなるでしょうか?

法人の財務状態が極めて悪い状態になります。

法人で経費を計上するということは、利益が減少するということです。
これによって、債務償還年数が伸びてしまいます。
また、利益が減少するということは、法人の純資産が増加しないということです。
つまり、自己資本比率が改善しません。

これにより何が起こるかというと、その法人の銀行格付けがよくなりようがありません。

そのため、追加融資が難しなったり、金利が上昇したりします。

結果として、物件の追加取得が困難になります。

結果として、法人で物件を追加取得し、その規模を拡大していきたいという場合、
経費を計上しすぎると、その目標を潰すことになります。

目先の節税につられ、本来の目標を達成できなくなるのです。

では、資産家はなぜこのようなことができるのか。それは、その法人の財務状態悪化を
カバーして余りある資産をすでに有しているからです。
要するに、抵当権を設定できる無担保の土地や、キャッシュをすでに十分に保有しています。
銀行も、この資産をあてにして融資をします。

しかし、そのような資産背景を持たない投資家が同じようなことをすると、
あとに残るのは財務状態が悪化し、銀行から見捨てられた法人だけです。

それでは、規模の拡大など夢のまた夢です。

いまから資産を築こうとしている人が、資産家のマネをしてはいけないのです。

両者を混同している人が多い。節税と資産形成は通常両立しない

本来、法人を設立する前段階で、自分が何のために法人を設立するのかを
決めておくべきです。

しかし、実際は、これから規模を拡大するという目標を以て法人を設立した投資家が、
節税に血眼になってしまう例は本当に跡を絶ちません。

自分の家を社宅にできないか?役員報酬を出したい。生命保険で節税したい…等々。

それらは確かに節税になりますが、法人の財務状態とのバランスを勘案すべきです。

たしかに、目先に支払う税金は少なくなったりなくなったりしますが、それ以上に
大きなものを失います。

税金を払うことはとても辛いことです。「納税で、実現しよう明るい未来、豊かな社会」
などと嘯けるのは、納税の痛みを知らない子供だけです。

しかし、自分は今何を目指しているのか、常に自問し、税金を払うべきステージなのか
どうか、考えてみましょう。

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