個人でも家族に給与を出せる?青色事業専従者給与とは

給与の支給による所得分散は、法人でよく行われることです。

しかし、個人であっても、一定の要件を満たせば、家族に給与を支給することが可能です。

給与による所得分散は決して法人の専売特許ではありません。

その方法を今回は見ていきましょう。

なお、青色事業専従者給与のデメリットを下記の記事で解説しています。
こちらも併せてご参照ください。

個人が家族に給与を支給できるか

個人は、原則として家族に対して給与の支払いができません。給与に限らず、あらゆる料金の支払いができないのです。

つまり、個人は、家族に「対価を支払う」事ができないのです。正確に言うと、別に支払っても良いのですが、それを経費にできないということです。

所得税法第56条

居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし…

 

長ったらしいい文章ですが、要は、家族に支払った対価はどんなものでも経費にはならないということです。

ただ、家族に対して支払った対価が唯一経費にできるものがあります。

それが、青色事業専従者給与です。

青色事業専従者給与とは

このように、原則的には家族に給与を支給することはできない(支給しても経費にならない)のですが、その唯一の例外が専従者給与です。

これは、以下のような4つの要件を全て満たす必要があります。

青色事業専従者に支払われた給与であること

まず、給与を支払う親族が、青色事業専従者に該当する必要があります。

青色事業専従者の要件は、以下のようなものです。

イ 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
ハ その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。

生計を一にするとは、同じ財布で生活しているイメージです。

同居している必要はありませんが、別途の収入があって自活しているなら生計を一にするには該当しません。

専らその事業に従事するとは、基本的には、その年の6ヶ月以上その仕事に従事しているかどうかです。

他に仕事を有している場合は(学生も含めて)、通常は難しいです。

青色事業専従者給与に関する届出書を納税地の所轄税務署長に提出していること

青色事業専従者給与を支給する場合、その届出書を税務署に提出しなければなりません。

家族に給与を支払う年の3月15日までに、青色専従者給与に関する届出書を税務署に提出する必要があります。

届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること

届出書には、給与額や支払い方法、親族が行う仕事の内容を記載します。

その金額を超えて支給することはできませんし、記載した仕事内容以外をしていても否認されたりします。

青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当と認められる金額であること

ここがなかなか難物ですね。

労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の状況に照らし労務の対価として相当であると認められること。

が必要になります。

つまり、支給した給与が、その仕事に見合ったものかどうかということです。

これは、その仕事をしている期間や仕事の内容、規模の類似する同業が支給している

給与の状況、事業の種類や規模・収益の状況などから総合的に判断します。

正直、いくらなら大丈夫だということはなかなか難しいです。

過去の判例では、類似同業者給与比準方式という方法が採用されています。

同業で規模が類似した他の人がいくら家族に給与を支払っているかを抽出して、その金額を適正額とするものです。

ただ、そのような金額が開示されているわけでもないので、個々の事情により決めていく事になります。

以上の条件を全て満たした場合に、家族に支給する給与は経費とすることができます。

青色事業専従者給与のメリット・デメリット

メリット

(a)  個人でも所得分散ができる

個人でも、法人と同じように所得分散を図り、高所得者から所得を移転することができます。(勤務実態があることは大前提です)

もちろん、給与を受け取る家族は給与所得控除を受けることができます。

(b)  5人未満であれば、社会保険の加入義務がない

同じように親族に給与を支給して節税を図る手法として、親族を法人の役員にし、役員報酬を支給するというスキームもあります。

この場合は、役員報酬が法人で経費になるわけですから、効果としては青色事業専従者給与と同じです。

ただ、大きな相違は、法人から役員報酬を受け取ると、法人で社会保険(厚生年金・健康保険)への加入が避けられないという点です。

会社の常勤役員に対して役員報酬を支給する場合、社会保険の加入は必須です。

昔は役員報酬を支給していても、自ら申請しなければ社会保険の対象となることはありませんでしたが、今は事情が全く異なります。

法人を作ったことのある方はご存知でしょうが、年金事務所から信じられないくらい執拗に、社保加入の連絡が来ます。

このため、例えば所得の無い配偶者を法人の役員にし、役員報酬を支給すると、法人での社会保険加入が必要になるわけですが、例えば配偶者が専業主婦などで第三号被保険者として国民年金などを免除されていた場合、新たに社会保険に加入すると負担が純増してしまいます。

一方で、個人が青色事業専従者給与を支給する場合、社会保険への加入が必要になるのは、「従業員が5人以上」の場合のみです。

つまり、自分の親族1人だけに給与を支給しているようなケースでは、社会保険への加入は義務ではないというわけですね。

この場合、例えば第3号被保険者である配偶者は、第3号被保険者のまま給与を受け取ることができるわけです。
(もちろん、給与支給が130万円を超えると社保加入が必要です)

このように、青色事業専従者給与は、社会保険に加入することなく親族に給与を支給することができるという、大変メリットの大きい制度になるわけです。

デメリット

(a)  専従者給与を受けると扶養控除の対象から外れる

青色事業専従者給与を受けると、扶養控除を受けることはできません。

(b)  対象者が非常に限定される

青色事業専従者となれるのは、正直、専業主婦(夫)の方や働いていない子息などに限られてきます。

もともと家業に従事している人を想定した制度なので、いささか時代錯誤的ですが、法律がそうなっているので従う他ありません。

このようにデメリットも多い専従者給与ですが、扶養控除が受けられない点や社保の扶養から外れる可能性を見つつも、それ以上にメリットが大きいことも多いです。

特に、所得の多い方にとっては非常に重要なメリットになりそうですね。

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