不動産の取得経費をどう処理するか

収益不動産の取得時には、様々な経費が掛かります。
これらの経費、一工夫で財務状態を良くも悪くもできるのです。

この点も、よく考えたうえで処理したいものです。

不動産の取得費用とは?

不動産を取得した場合の付随費用には、以下のようなものがあります。

  • 仲介手数料
  • 司法書士報酬
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 印紙税

この他、固定資産税清算金などがありますね。

取得費用の処理方法には2つある

取得費用はどのように処理するよう定められているのでしょうか?

少し根拠を含めてみてみましょう。

大蔵省企業会計審議会
企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書3 第1-4-1

固定資産を購入によって取得した場合には、購入代金に買入手数料、運送費、荷役費、据付費、試運転費等の付随費用を加えて取得原価とする。但し、正当な理由がある場合には、付随費用の一部又は全部を加算しない額をもって取得原価とすることができる。

 

法人税法基本通達7-3-3の2

次に掲げるような費用の額は、たとえ固定資産の取得に関連して支出するものであっても、これを固定資産の取得価額に算入しないことができる。

(1) 次に掲げるような租税公課等の額

イ 不動産取得税又は自動車取得税
ロ 特別土地保有税のうち土地の取得に対して課されるもの
ハ 新増設に係る事業所税
ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用

(2)、(3)省略

 

以上の規定より、通常下記のように理解されています。

  • 仲介手数料は必ず資産に計上する
    (ちなみに、固都税清算金も資産計上です)
  • それ以外の経費は、資産にするか経費にするか選択可能

つまり、仲介手数料以外の取得費用は、資産とするか経費とするか、自由に選択可能なのです。

選択可能性をどう活かす

そりゃ経費にした方が税金が減るからいいじゃないのと考えたあなた、一つ例を見てください。考えは変わるかもしれません。

前提:資本金50万円の新規設立法人で不動産取得。2億円のRCでフルローン。
仲介手数料は6百万円、その他経費が8百万円。その他の収入支出なし。

取得費用を全て資産に計上した場合

取得費用をすべて経費に計上した場合

取得費用を資産計上した場合、特におかしな点は見当たりません。

しかし、取得費用を全額経費に計上した場合、第1期は当期赤字を計上することになり、結果として純資産の部が△7,500、つまり債務超過状態になってしまいます。

この債務超過状態を解消するためには、数年間かけて利益を蓄積するか、債務免除益で無理やり解消するほかありません。

実態は何も変わりません。2億円のRC物件を購入し、1千4百万円の諸経費を支払ったという点は同じなのです。

しかし、取得費用の処理方法次第で全く違う財務諸表になってしまうのです。

何に影響するか

では、これが何に影響を与えるのでしょうか。

銀行評価への影響

銀行は、赤字や債務超過の企業への融資を嫌います。

というか普通はしません。

もちろん、当期が1期目であるため、取得費用のために赤字になったのだと説明すれば理解してくれる銀行員もいるでしょう。

しかし、銀行員が最初に受ける印象が全く違うのです。1期目でしかも赤字の債務超過状態だというだけで、門前払いされるケースは実際あります。

いきなり持ち込まれたあなたの会社の財務諸表を、銀行員が丁寧に読み解いてくれるでしょうか?

あまり期待できることではありません。

銀行の好む財務諸表を作成するということは、融資を受ける大きなアドバンテージとなるのです。

さらに、3期分の決算書で融資審査をする場合、3期連続黒字出ることは大きなアドバンテージとなります。

1期でも赤字があると、融資の難易度は大きく上がります。

もう一年黒字の決算書ができるまで待ってと言われたら泣くに泣けません。

債務償還年数への影響

融資と関係することではありますが、銀行が企業の健全度をはかる指標として、務償還年数という指標があります。下記のように計算します。

(借入金-現預金)÷(当期純利益+減価償却費)=債務償還年数

例えば、借入2億円、当期純利益1,000万円、減価償却費1,000万円の場合、2億円÷(1,000万円+1,000万円)=10年となります。つまりこの会社は、2億円の借入を10年で弁済できるよね…というような指標です。

この算式で注目していただきたいのは、分母は利益に減価償却費をプラスしたものだということです。

つまり、減価償却費が上昇すれば、債務償還年数は短くなるのです。

債務償還年数は短ければ短いほど良いものです。

銀行によって計算方法も信用格付け上の取り扱いも若干異なるのですが、20年は借入過多、概ね30年超で要注意先になることが多いです。10年~15年で要注意先の取り扱いを検討されるという話も聞きます。

もちろん、不動産賃貸業は構造上借入金が大きくなりやすく、銀行も債務償還年数が長めになることは認識しています。

しかし、当然少しでも短いに越したことはありません。

そして、取得費用を資産に計上すると、その金額は減価償却されることになります。

つまり、取得費用を資産に計上すると、債務償還年数が短くなるのです。

税金のみに注目せず、財務会計は戦略的に

もちろん、すでに複数等保有しており、取得費用を十分に吸収できる利益が出る場合は、経費計上でも大丈夫でしょう。

ただ、経費を計上すると利益が減ります。

利益が減るということは、決算書に必ず悪影響をもたらすのです。

ただ、取得費用を侮ることなく、現時点の財務状態と将来の姿を見ながら検討し、決定するようにしましょう。

 決算書は会社を写す鏡です。鏡に自分の姿がどのように映っているのか、あるいは、どのように映るべきなのか、しっかり考えたうえで決断しましょう。

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