前回は、建築会社の倒産がなかなか予見しがたい、という点を解説しました。
土地から新築投資の最大のリスク 建築会社の倒産
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今回の記事では、実際に建築会社が倒産したり夜逃げしたりした場合、いったいなにが起こるかについて解説していきます。
建築途中建物の所有権問題
新築を自分で建てる場合は、皆さんが施主として工事を建築会社に発注し、建築会社がそれを建築するわけですね。
例えば、工事請負契約を締結していた建築会社が、上棟が終わったくらいのタイミングで資金ショートにより工事を進められなくなったとします。
当然ながら、皆さんは工事を進めることができなくなった建築会社との工事請負契約を解除しようとするでしょう。
もちろん、その建築会社が工事を満足に進めることができなくなったわけで、工事を発注した側としては契約不履行ですから、そのまま契約を継続する理由は何もありません。
ただ、契約を解除できて当然という印象ですが、実際法的に解除することは難しいです。
というのも、建築途中の建物の所有権は、基本的に建築会社にあるからです。
多くの方が認識していませんが、建築途中建物は建築会社の財産なのです。
もちろん、施主はお金を出している以上、所有権を主張すること自体はできます。
ただ、日本の法律では、建築途中に職人の賃金や材料の提供を行った側にもそれ相応の所有権を認めているのです。
ですので、建築途中建物の所有権は施主のみに認められるのではありません。
施主から工事請負契約の解除を申し出たとしても、建築会社がそれを拒否することは十分に可能です。こうなると、早く解除して工事を再開したくてもできません。
工事契約の解除のためには、まずは建築会社が建築途中建物の所有権を放棄するというか、その所有権を主張しないというような合意形成が必要になってきます。
これが意外と困難を伴います。
建築会社が夜逃げしてしまうと、そもそも契約の解除自体ができません。契約解除の意思決定の主体がなくなるからですね。契約解除に関する内容証明を送ろうにも、送り先がわからないわけですね。
一方、破産など法的な手続きを取られると、さらに悲惨になる可能性もあります。
建築途中建物の所有権は建築会社にあるわけですから、破産後はその処分が一切できなくなります。
財産の処分と債務者への分配が行われるわけですから、この財産分配の中で建築途中の建物の所有権を主張していくしか道がありません。
こういうわけで、破産手続きが完了するまで工事の再開は不可能になります。
最低でも1年は工事できないでしょうし、工事を再開できるかどうかもわかりません。
ですから、建築会社が資金繰りに行き詰まり、工事がストップしても、建築会社との協議と合意なしに現行の契約を解除することはできないのです。
この交渉を、建築会社が飛んでしまう前になんとしても成立させせねばなりません。
工事を進めない建築会社が悪いのですが、一方で建築会社は工事請負契約上非常に強い立場を持っているのです。
厄介なことに、資金繰りがショートした会社というのは、社長が自暴自棄になったり、社員のやる気が全くなくなったり、あるいは社員が大量退職したりして、通常の組織としての思決定能力を失いはじます。
このあたりは、施主に迷惑をかけないよう配慮してくれる会社もあれば、施主を見捨ててでも自分が助かろうとする会社もあり、これもその時にならないとどうなるかはわかりません。まさに、相手の善意に期待するしか無いわけです。
個人的な印象としては、名もない中小建築会社はやはり簡単に逃げてしまうことがあります。ある程度大きな会社になると、その資金ショートによる社会的影響も大きいですから、きちんとした手続きが取られることが多いですね。
施主の立場としては、建築コストは安くしたいということで、中小建築会社を使いがちですが、こういった場合に差がでることがあります。
このような状況下で、そのような会社と交渉をまとめることがいかに難しいかはご理解いただけるでしょう。
もちろん、工事請負契約を進められなくなったのは建築会社ですから、裁判を起こせば勝てるでしょう。
しかし、その期間工事が止まることになります。工事が止まるということは、借入金の返済が始まるかもしれませんし、本来得られたであろう賃料収入も得られません。
トラブルを生じた不動産を抱えている状態では、銀行も次の物件の融資には及び腰になるでしょう。また、建築途中建物自体も野ざらしのまま放置されてしまうので、雨風にそのままさらされてしまい、劣化が進んでしまいます。
建築工事が止まることのデメリットは非常に大きく、法律上どちらが勝てるかという話ではなく、工事をいかに迅速に再開できるか、という点が非常に重要です。正直裁判なんてしている場合ではありません。
工事関連書類を回収できるか
建築会社が倒産してしまうと、さまざまな書類を回収しなければなりません。
まずは何といっても設計図面です。これがないと大変なことになります。
設計事務所と建築会社が別であれば、建築会社が倒産しても設計事務所とやり取りすれば問題ないでしょう。しかし、建築会社が設計を内製化しているような場合、建築会社の倒産によって設計に関する情報も失われる恐れがあります。
例えば、基礎のコンクリートや鉄筋の工事報告書や調査書が無いと、そもそも工事完了後に工事完了検査をとることが難しくなります。そうすると、なんとかがんばって工事の完成に持ち込めたとしても、工事完了検査が通らないという事態になると、果たして人の居住に利用してよいのか、という問題が出てきます。
また、たとえば劣化対策等級を取得する場合、検査機関に提出する各種資料があり、これを提出できないと劣化対策等級を取得できません。
劣化対策等級には設計と建築の両方があり、もちろん設計の劣化対策等級はとれるでしょうが、建築の劣化対策等級が取れない、という可能性があります。
そうすると、劣化対策等級の取得を前提とした融資期間にも影響があるかもしれません。
建築完了後の販売金額にも影響してくるでしょう。
このように、建築工事には必要な書類がたくさんあります。
倒産した建築会社がこれらの書類を適切に引き継いでくれれば問題無いのですが、倒産や、さらに夜逃げなどの事態になると、これらの書類がどこにあるかわからず回収できないというケースもあります。
そもそも、工事請負契約に定める工事を進められなくなっている時点でこういった契約関係に反しており、信義則が通じる状況ではなくなっています。
このあたりも、建築会社としっかり交渉したり、あるいは実力行使をしたりして、なんとかするしかありません。
大きな建築会社の倒産案件だったりすると、管財人もしっかりしており、こういった書類の引き継ぎも行われるケースが多いですが、中小建築会社の夜逃げだと本当に一夜にして一切の連絡が取れなくなります。そうなると、どこに工事書類があるのかもわからない状況に陥ったりもします。
下請け会社とのトラブル問題
更に厄介なことに、施主として話をまとめる必要があるのは、自分が請負契約を締結した建築会社だけではありません。
下請会社との話もまとめる必要があります。
建築会社との工事請負契約を解除すれば、晴れてすっきり工事を再開できる、というわけではありません。
というのも、建築工事というものは、表に立つ建築会社が進める工事というのはあまり多くなく、多くの下請会社が建築会社の依頼に基づき作業しています。
こういった下請会社も、自分たちのした仕事分のお金をもらうまで、その引き渡しを拒否できるのです。(これを留置権といったりします。)
ですから、元請けである建築会社と工事請負契約の解除に合意したとしても、それだけで工事は再開できません。
下請け会社との話も取りまとめる必要が出てきます。
通常は、元請けである建築会社が資金ショートすると、下請会社にも代金が支払われていません。
そうなると、下請会社としては、代金を支払ってもらうまで建築途中建物の自分が作業した部分の引き渡しを拒否できるわけですね。
実際問題、建築会社が支払っていない工事代金を、施主に払うように言ってくる下請会社が多いです。
当たり前の話ですが、代金を支払うべきは建築会社であって、施主ではありません。
施主は既に建築会社にお金を払っているわけですからね。
ただ、下請会社も資金回収しないと存亡にかかわる上、建築会社はもう払えないことが明らかですから、当然施主に要求してくるわけです。
もちろん、法律上、施主は下請け会社に元請けが払っていないお金を払う必要はありません。あくまで施主は元請けの建築会社と取引しているのであって、元請けが下請けにお金を払っていないのはあくまで元請けと下請けの取引関係において解決すべきものであって、施主が何かしなければならないというものではありません。
しかし、法律論はさておき、施主としては、これを突っぱねることができないのです。
下請け会社が留置権を主張できる以上、施主もその意向を全く拒否することはできません。
下請け会社が留置権を行使すると、結局施主も工事をすすめることができません。
とにかく工事が止まってしまうことは、施主としては何としても避けたいことです。ですので、下請け会社が工事を止めてしまうことができる以上、その要求を無視できないのです。
また、下請け会社の要求を拒否すると、下請け会社が自分の工事分を撤収してしまったり、あるいは人員を動員してお金が支払われるまで工事現場を占有する可能性すらあります。
このように、施主としては、契約関係にある建築会社だけでなく、その下にいた下請会社との合意までまとめる必要があります。
また、下請会社は元請けの建築会社からの支払いが行われないことにより、不信感の塊になっていることが多いです。さらに、下請会社自体も、建築代金不払いにより倒産してしまう可能性があります。
請会社が複数存在することも普通です。電気工事、水道工事、鉄骨階段の制作、屋根の作成、内装関係の手配、などなど様々な会社がかかわってきます。
こういった状況下で、交渉によって既存の工事請負契約を解除し、工事を再開していくには、本当に困難な交渉の連続になります。
もちろん、下請け会社は基本的に工事を進めたいと思っています。というのも、下請け会社も工事を進めた部分に対応するお金をもらえないと、自分たちが倒産してしまいます。そして、元請けの建築会社が倒産した以上は、そのお金は施主から受け取る他ありません。
ですので、元請けの建築会社は倒産したとしても、施主が下請け会社を引き継いで工事を継続するというのが最も良いパターンです。
下請け会社は実際にその建物の工事を行っているわけで、どのような工事を行っているか知っていますから、その下請け会社をそのまま使うことができることができれば、工事の再開もスムーズです。
また、既存の下請け会社を切って、新しい会社を入れるにしても、現実問題としてお金を払わないと留置権の問題からして難しいですし、結局お金を払うならその会社に工事を継続してもらった方が良いでしょう。
他の会社に頼むといっても、何がどこまで進んでいるか分からない工事現場を引き継いでくれるような会社は普通はありませんし、他の会社に頼んだとしてもかなり割高になるでしょう。何がどこまで進んだか分からない工事を引き継ぐというのは、引き継ぐ会社にとっても大きなリスクを負うことだからです。
そういう意味で、下請け会社をそのまま使うしか選択肢はほとんどなく、建築会社の破産トラブルにおいて、下請け会社と施主は運命共同体的側面があります。
ですので、施主としても下請け会社の意向をまったく無視することは不可能なわけです。
交渉がまとまらないケースもあるでしょう。
交渉している間に、建築会社や下請会社が夜逃げしてしまい、どうしようもなくなる可能性もあります。
そもそもどうやって下請け会社を把握するか
通常、施主は元請けがどのような下請け会社にどのような仕事を依頼しているか把握していません。
施主は元請けの建築会社と契約しているのであって、元請けは施主との契約を実行するため、独自に下請け会社に仕事を依頼しています。
ですので、施主はどのような元請け会社がどのような仕事をしているのか、まったく把握はできません。
元請けである建築会社がいる間はそれでよいのですが、この元請けが倒産してしまうと、今まで見てきたように下請け会社とも話を付ける必要が出てきます。
しかし、施主は下請け会社の情報を把握していません。
この点もかなり大きな困難になります。
建築現場に張り紙をだして、下請け会社は施主に直接連絡してくれ、というようなことをするケースが多いです。
また、元請けである建築会社から情報を引き出す必要があるかもしれません。
下請け会社の情報がすべてはわからず、わからない中で進める可能性があるかもしれません。
ただ、建築会社というのは昔かたぎの職人の寄せ集めのようなケースも多く、不動産投資家からみると全く別世界の人達ということも多いです。また、不動産投資家には建築の知識をもたず、なかなか共通言語が無いなかでコミュニケーションをとるのも難しいことが多いでしょう。そのような中で、自分が旗を振って状況を整理統制し、工事を再開していくことがなかなか大変であるか、ご理解いただけるのではないかと思います。
建築費の先払い問題
ここで、元請けの建築会社との工事請負契約を解除し、既存の下請け会社を引き継いで、工事を進めようというところまで話をまとめられたとします。
この次には、工事費をいつ払うか、という問題が出てきます。
元請け会社が資金ショートに陥っている以上、下請け会社も工事代金を受け取ってはいません。要するに、下請け会社も資金ショート状態になっていることが普通です。
また、建築途中建物については、そのリスクの高さからか、工事を継続しようとする会社に銀行はつなぎ資金の融資をしてくれない傾向にあります。
そうすると、工事を再開するといっても、まずは元請け会社が下請け会社に払っていないお金を確保できないことには、工事は始まりません。
工事にはお金が必要であり、このお金を誰かかが提供する必要があります。このお金の出し手は、施主しか残っていないのですね。
こういったお金は、通常元請けである建築会社が立て替え払いしています。そういう意味で、元請け会社というのは、資金の調整弁の役割もあるわけです。下請けにお金を払いながら、一定のタイミングで施主からお金を回収して帳尻を合わせるわけです。
しかし、この元請けがいなくなった以上、施主が下請けにお金を払っていかないと、工事は進まないでしょう。
ここで問題となるのは、施主がお金を工事開始時点で払う必要があるので、そのお金を確保できるかどうかです。
不動産投資家の場合、建物建築資金の融資を受けているでしょう。本来工事の進捗に合わせて、建築会社に支払いを行う際に手形融資の実行を受ける、という形態が多いでしょう。あるいは、工事開始時点で融資金全額の融資が実行されるが、建築会社に払わない部分は別の通帳に送金され、金融機関側に建築会社からの請求書を提示してその引き出しをしていく、というケースもあります。
いずれにせよ、工事代金を銀行から引き出さなければならないのですが、建築会社が倒産してしまった場合、工事代金の融資については、工事代金の支払いの都度ではなく、建物完成引き渡し時の一括融資に切り替わることが多いです。
これは、建築トラブルの生じた工事はそもそも工事が完了するか分からず、リスキーなので、工事が完成した時点で残りの融資は実行したい、ということがあるのでしょう。工事途中で融資をして、工事が完了しないと、銀行としては負う傷が深くなってしまいますからね。
このように、建築トラブルの渦中においては追加融資が受けられなくなることが多いのですが、しかし上述の通り、工事を再開するにはまず施主がお金を払わなければなりません。
もちろん、工事が完成したら融資は実行されるでしょうから、工事が完成しさえすれば回収できるのですが、工事途中においては、施主が自分で立替払いしなければならないのです。
この資金を用意できるか、という点も大きな問題です。
工事の規模によっては、数千万円単位になることもあるこのお金を、自分の貯金から払わなければなりません。人によっては、本当に家を売る必要がでてくることもあります。
また、どうやってもこの資金を用意できない場合、その時点でその方の運命は決まってしまいます。
その意味で、新築工事を行う場合、この資金持ち出しに耐えられる資金的余力がないと、とても恐ろしいことになりかねません。いざというときに銀行融資に頼らず資金を払うことができるのか、しっかりと備えておく必要があります。
下請けの連鎖倒産の可能性
さて、このように、元の建築会社との工事請負契約を解除し、下請け会社との工事継続を取り付け、その資金を提供できたとします。
それでもう工事完了間違いなしと思いたいですが、そうではありません。
工事継続をしてもらった下請け会社が倒産する可能性があります。
元請け会社が倒産している以上、下請け会社も資金的困難に直面しています。下請け会社も工事を職人に発注していたのに、その代金を元請けから受け取れないので、払うべきお金を払えていません。要するに資金ショート状態です。
この資金を施主が負担して資金ショート状態を解消していくわけですが、下請け会社とは別にその工事を1つだけしているわけではありません。
倒産した元請け会社から複数の現場を請け負っていたりします。
また、他の会社からも工事を請け負っているでしょう。
そのような中で、施主が資金を提供したとしても、自分の工事だけにお金が使われるというわけではありません。当然、他の工事現場の資金にも充てられるでしょう。
他の現場も工事が再開し、資金が流れ始めればよいのですが、他の工事現場が止まったままだと、いくら1現場で工事が再開できても、下請け会社の資金力も限界があります。
そうすると、施主がお金を払ったその下請け会社自体も、夜逃げや倒産の恐れがあるわけです。まさに連鎖倒産ですね。
ここまでくると泣きっ面に蜂としか言いようがないですが、実際に発生する可能性は十分あり得ます。
下請け会社は、そもそも元請け会社の倒産の影響を受け、資金繰りが確実に悪化しています。しかし、留置権や実際の工事遂行の観点からは、この資金繰りの悪化した下請け会社にお金を払って工事を進めざるを得ません。とはいえ、そうしても資金繰りの悪化した下請け会社の体力が持つかどうかは、わかりません。
銀行が工事途中での融資実行を渋るのも、まさにこれが理由でしょう。本当に工事が完了するかは、正直神のみぞ知るとしか言えません。お金を払ったからと言って、工事が完成するという保証はどこにも無いわけです。
このように、結局は工事の完成までは綱渡りの状態が続いていくことになります。
建築会社の倒産という特異点
このように見てくると、建築会社の倒産というのは、まさに特異点というか、あらゆる水面下の問題が一気に噴き出してくることになります。
表に出てきている情報では、建築会社の破綻を乗り切った話ばかりですが、すべての人が乗り切れているわけではありません。どうにもならなかった人は、情報発信をしないのです。一種の生存バイアスですね。
特に、下請け会社に支払う資金を用意できなかったケースは、本当に悲惨です。
新築投資は確かに利回りが高めで、魅力的であることは確かです。しかしながら、その魅力的な投資というのは、相応のリスクを負った結果にすぎません。
リスクに直面する人は多くはありませんが、確実に存在しており、状況によっては一撃必殺の影響を受ける可能性があります。とりわけ、近年は建築業界での破産倒産は本当に多くなっています。
どのようなリスクが存在するのか、しっかりと把握した上で進めるようにしましょう。