法定耐用年数という悲劇的に勘違いされている存在

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不動産投資をしていると、法定耐用年数という言葉は本当によく聞くと思います。

特に、融資期間に関わるため実に重要視されます。

私も物件を探す際は、RCなら築25年までみたいに指定しますね。

築26年になったら何がだめなのかと言うと、建物の状態は正直変わりません。
築古がダメなのではなく、融資期間が伸びないので買いにくいのです。

ただ、私自身このような不動産の買い方をする一方で、この法定耐用年数の恐るべき誤用、法定耐用年数に対する悲劇的勘違いに本当に悲しくなることも事実です。

法定耐用年数は、融資の現場では本来の趣旨を逸脱した使われ方をしていますし、そしてそのことに誰も気づいていません。

法定耐用年数が何故融資で重要なのか

融資期間を長くする重要性

不動産投資をされている方であれば、融資期間の重要性を強調されるでしょう。

同じ表面利回りであっても、融資期間が15年なのか30年なのかで毎年の手残りキャッシュフローは大きく異なります。

この事自体は、多くの方がご存知でしょうから、いまさら説明するまでもありません。

もちろん、融資期間が長いか短いかは、元金を早く返すか遅く返すかの違いですので、本質的な儲けにあまり関係がありません。
むしろ融資期間が短い方が投資成果としては高くなります。

しかし、実際問題として、いくら元金返済により純資産が改善しているといっても、キャッシュフローの出ていない物件を保有し続けることは大変です。
また、手元現金がないと突発的な修繕に対応できないですし、次の物件の頭金などに使うこともできるでしょう。

そう考えると、特に投資初期においてキャッシュフローを確保することは重要なのですが、そのためには融資期間を長く取らねばなりません。

融資期間を長く取るためには、法定耐用年数が鍵を握ります。

なぜ融資期間に法定耐用年数が関係するのか

金融機関は通常、融資期間を以下のように決定します。

法定耐用年数-築年数=融資年数

例えば、築25年のRC物件ですと、RCの法定耐用年数は47年ですので、47-25=22年が融資期間になるという塩梅です。

この22年は一般的には残存耐用年数と言ったりもしますが、結局この残存耐用年数が基本的には融資期間と一致します。

また、さらに重要な点なのですが、金融機関は融資の審査をする際に、この残存耐用年数以内での収入から融資を回収できることを大前提としています。

例えば、25年のRCレジを審査する際に、22年間の収入で元金と金利をキッチリと返済できるかを大変重視します。

では、この物件が22年間で収支上赤を出してしまうとなると、融資額が大きすぎるということになりますので、融資額の減額や謝絶となるわけです。

例えば、これが築35年のRCであれば、この計算を12年間で行うのですが、では12年間で収支が回るかと言うと、多分半分は頭金を入れないと回らないです。

このため、頭金割合が非常に高くなるので、通常の投資家は購入できないのです。

このようなわけで、残存耐用年数は投資家目線でも重要視せざるをえません。

これは、投資家にRC物件が人気である理由の最も大きい部分でしょう。

RCが47年に対し、木造アパートは22年です。

同じ築10年の物件でもRCが30~35年の融資期間を考えられるのに対し、木造なら12年になってしまいます。

12年で回せる物件となると、かなり厳しいですよね。

保有物件の収支も法定耐用年数で見られる

また、既に保有している物件の収支が回るかも銀行はチェックするのですが、大きな銀行になると、ここにも法定耐用年数を厳密に適用してきます。

つまり、法定耐用年数を超過した以降の家賃収入をほとんど見なかったり、あるいはかなり圧縮したりするようです。

こうなると、例えば築20年の木造物件を保有し、30年のローンを受けている人は、木造の法定耐用年数は22年ですので、あと2年しか満足に家賃収入が入ってこない一方で、ローンの返済は30年キッチリするという計算が行われます。

もちろん、本当は人も住んでいるし家賃も入っているのでしょうが、あくまで審査をする上でそのような計算をするということです。

そうなると、収支が回るわけ無いですよね。

築古の物件を保有していて、それが原因で融資を断られるのは、だいたいこの理由によります。

銀行は「既存物件が重い」「既存物件が積算割れ」「債務超過」など様々な言い方をしますが、結局はそういうことです。

そういうわけで、既存物件の収支を銀行にきちんと見てもらうためにも、法定耐用年数は重要になってくるとご理解いただけるでしょう。

法定耐用年数に対する悲劇的勘違い

このように、法定耐用年数が非常に重要視されている一方で、法定耐用年数に対して根本的な勘違いが蔓延しています。

それは、法定耐用年数が建物の使用可能期間であるというものです。

以下のような勘違いは、銀行員や、融資コンサルタントのような専門家からもしばしば聞くことです。

法定耐用年数を超えた物件は使えない、いつつぶれるかもわからない、という法定耐用年数=使用可能期間という勘違い

これは、なぜ法定耐用年数超過の融資が難しいかという話をしていると聞く言葉です。

「法定耐用年数を超過している物件は、明日なくなるかもしれないじゃないですか?そんな危険なことはできないですよ。これは、事業性云々ではなくて銀行のリスク管理の問題なのです」

こう言われると、もうどうしようもありません。

私もこのときは、白目で「それはそうですね」と答えました。

法定耐用年数を理解していないのに、何がリスクかをどうやって判断しているのか私にはわかりませんし、議論のスタート地点が合わないので議論にすらなりません。

「法定耐用年数を超える物件に家賃が生じていると想定することのほうが不合理」と言われたこともありますね。

私もこのときも、白目で「それはそうですね」と答えました。

法定耐用年数を理解していないのに、何が合理的で何が不合理かをどうやって判断しているのか私にはわかりません。

法定耐用年数を超えた物件は減価償却ができない、
償却が終わっているという勘違い

「法定耐用年数が超過しているので、もう償却できないですよね?かなり利益が出てしまいますが大丈夫ですか?」

こういうことも言われたことがあります。

この言葉を聞いた瞬間に、法定耐用年数や減価償却の本質を全く理解できていないことがわかるので、とても悲しくなります。

これも、法定耐用年数を純粋に「建物を使える期間」

とでも思っているからこういう勘違いをするのかな?と思います。

法定耐用年数は「使える期間」では決して無い

そもそも耐用年数とはなにか

そもそも耐用年数とは何なのでしょうか?

会計の考え方に、「収益費用対応の原則」というものがあります。

これは、企業の売上を「成果」、費用を「努力」と考え、この「成果」と「努力」を適切に対応させることで、企業の成績としての利益が適切に計算できるとするものです。

つまり、企業の利益とは、成果と努力のどちらが大きかったかを示す指標というわけですね。

普通の経費であればお金を支払った際に費用にするのですが、問題なのが固定資産です。

多額の支払が生じる一方で、その効果は購入後長年継続します。

企業が工場を購入した場合、多額の支出をそのときに費用にすれば、大赤字ですよね。では、その大赤字がその会社の成績というのは問題があります。

というのも、工場の購入は、今後長年の売上に貢献するため、工場の購入という努力も、その将来の売上に対応させるべきというわけです。

将来に、工場からの売上(つまり成果)が発生するのに、そのための費用(努力)がなにもないというのでは、成果と努力の対応関係を把握することができません。

では、工場を購入したとして、何年後の売上にまで対応させるべきか、その工場が何年間役に立つと考えるのか。

このように、固定資産を購入した場合に、その購入という努力を、何年先の成果にまで対応させるのか。

この努力を将来に渡って配分する期間が、まさに耐用年数なのです。ここでは、建物本体の使用可能期間という話は全く関係は無い点にご留意ください。

このため、法定耐用年数超過の物件でも減価償却ができます。

先に記述したとおり、耐用年数は購入という努力を将来の成果に対応させるものです。
たとえ法定耐用年数を超過した物件であったも、購入という努力をしていますよね?
その努力は、将来の成果に対応させねばなりません。

よって、法定耐用年数超過の物件を購入しても、減価償却ができるのです。

法定耐用年数の制定趣旨とは?

それにしても、なぜ法定耐用年数は構造ごとに一律に定められているのでしょうか?

本来、固定資産の購入という努力を将来の成果に対応させるというのであれば、その固定資産ごとに、どのくらいの期間で成果が出るか考えるべきでしょう。

本社建物や工場建物でも本来期間は違うでしょうし、そもそも修繕やメンテナンスによって劇的に異なるはずです。

適切にメンテナンスされたピカピカの建物と、放置され屋上が草むらになった建物の両方に同じ法定耐用年数が適用されるのは理解できないことですよね。

その点を明らかにした興味深い例があるので見てみましょう。

平成11年8月27日の国税不服審判所裁決です。

H11.8.27裁決

減価償却費を計算するに当たり、適用する耐用年数は、本来、企業の自主的な判断による合理的な基準に基づき、資産の実態に即して算定されるべきものであるが、建物の建造様式は種々雑多であって、その耐用年数を的確に算定することは非常に難しく、企業の自主的算定が困難であること及び仮に企業の自主的算定によることとした場合には、企業の業態、規模、経営方針等により千差万別となり、また、し意的になりやすいこと等から、法人税法では、課税の公平の点から耐用年数を含む減価償却要素が法定されている。

記載してある通り、耐用年数というものは、本来企業が自主的に見積もって算出すべきものなのですが、それを認めると、企業ごとに異なる耐用年数となり税務調査が大変面倒だし、企業も利益が出たときは短くしたりするだろうから、法律によって定め、法定耐用年数として強制的に適用しているのです。

また、企業側としても、個々の資産毎に使用可能期間を見積もるというのは、実務上現実的ではありません。
大企業になると1兆円を超える固定資産を保有しているわけで、その一つ一つについて使用可能期間を見積もるとなると経理部員が何人いても足りませんね。

法定耐用年数は国税側の勝手な理屈で定められたものといえますが、経済界としても現実的に画一的に決めてもらったほうがありがたいという面があるのでしょう。

また、国税側も自身の勝手な理屈で定めたのが後ろ暗いのか、以下のようにその合理性も強調しています。

H11.8.27裁決

法定耐用年数は、原則として通常考えられる維持補修を加える場合において、その固定資産の本来の用途用法により現に通常予定される効果を挙げることができる年数、すなわち通常の効用持続年数によると解され、通常予定される効果と通常考えられる維持補修とを基本的観念としている。
そして、通常予定される効果の期間測定に当たっては、固定資産の素材、構造などから導き出される一定の性能期間が、客観的基準を表明するものとして、普遍性をもち、比較衡量の適性をもち、かつ、経験的に推計的に相当高度の確率をもった結果を求めるものとして最も適当であるとしている。

確かに、過去においては法定耐用年数は使用可能期間から見て合理的でした。

今はどうかと言うと、全く合理的ではありません。

過去の法定耐用年数の推移

過去法定耐用年数が定められてその期間は基本的に短縮され続けています。
下記はRC造の法定耐用年数の推移です。

大正7年100年
昭和12年80年
昭和17年60年
昭和22年80年
昭和26年75年
昭和41年65年(居住系60年)
平成10年50年(居住系47年)

なんだか減ったり増えたりしているのも面白いですが、実は、昭和26年の
75年という法定耐用年数は、どのように計算したのかの根拠が公表されていました。

それが以下の表です。

昭和26年大蔵省主税局 固定資産の耐用年数の算定方式
付表2 建物の耐用年数算定の基礎

区分耐用年数全体を1万円とした場合の構成金額1万円当たりの減価償却費
防水20年1356.7
30年72024.0
外装50年72014.4
30年1,26042.0
構造体150年7,16547.7
総合10,000134.8

以上の総合欄から、10,000÷134.8=74.18→75年となります。

つまり、建物全体を構成する区分に分解し、その標準的な構成割合と耐用年数を加重平均して求めているというわけですね。

なるほど、非常に合理的なものです。

これなら、法定耐用年数=使用可能期間と言っても文句はありません。

しかし、これは75年ですよね?

今の47年はこれに対しほぼ半減していますが、どような根拠によるのでしょうか?

法定耐用年数が短縮された理由

では、今はRC造の法定耐用年数は47年なのですが、同じように構造を加重平均させた根拠があるのかというと、ありません。

なぜ47年に短縮されたのか、建物の使用可能期間が短くなった?構成比で耐用年数の短い窓や床が劇的に増加した?

いいえ、合理的根拠は何一つとしてありません。

ではなぜ短縮されたのかと言うと、これは完全に政策的なものです。

税収確保と企業の競争力の向上です。

まず、法定耐用年数が60年→47年となった平成10年の税制改正ですが、この際には別に様々な改正が行われています。

そもそもの法人税率が引き下げられた一方、課税ベースの拡大として、各種引当金の廃止や建物の定率法適用の廃止といった大改正が行われました。

このドサクサの中で法定耐用年数も一気に短縮されたのです。

おそらく、課税ベースの拡大に反発する経済界に対して、何らかのバーターが必要だったのでしょう。特に、建物への定率法適用廃止はかなりのインパクトだったはずですから。

経済界は、常に法定耐用年数の短縮を求めてきたからです。

各種業界団体の陳情書や意見書などを読むと明らかなのですが、借入金の返済能力の向上とか、国際的競争力の確保とか、様々な理由をつけて法定耐用年数の短縮が提言されています。

経団連などは、減価償却はそもそも使用可能期間でするのではなくて、設備投資の活性化や制度の簡素化のために短縮すべきと提言したりもしています。

また、日本の法定耐用年数は使用可能期間というタテマエがあるため諸国の耐用年数より長くなっているという点もあります。

つまり、現在の法定耐用年数というのは、日本産業の競争力や課税政策、税収の維持などといった完全に政治の産物であって、なんら建物本来の耐用年数(つまり使用可能期間)と関わりのあるものではありません。

例えば、昭和39年の税制改正要項では、法定耐用年数短縮の理由を以下のように説明しています。

昭和39年税制改正要項

開放経済への移行に備えて、企業内部留保の充実と設備の更新に資するため、機械設備を中心に、固定資産の耐用年数を平均十五%程度短縮する。 なお、有形固定資産について、取得価額の五%に達するまで償却を認めることとする等、 減価償却制度について改善を図る

法定耐用年数を15%短縮したのに、その理由は経済政策上のものです。どこをどう読んでも、建物の使用可能期間が短縮される理由ではありません。

昭和40年12月の「昭和41年度の税制改正に関する答申」では、以下のように記載しています。

昭和41年度の税制改正に関する答申

当面の経済情勢に即応し、産業上、経済上の諸要請にこたえ、企業の内部留保の充実に資するため、昭和二十六年以来改正が行われなかった建物の耐用年数を工場用建物、倉庫等に重点を置いて十五%程度短縮する

ここでも出てくるのは経済政策上の話で、建物の使用可能期間と何ら関係ありません。

たとえば、平成18年12月1日の平成19年度の税制改正に関する答申では、以下のような記載があります。

平成19年の税制改正に関する答申

減価償却制度は、償却資産の使用期間にわたって費用と収益を対応させるものであるが、国際的な競争条件を揃え、競争上のハンディキャップをなくすことが重要である…(以下略)

ここでは国際競争力を言っていますね。

このように考えてくると、今の税務上の法定耐用年数が、建物本来の耐用年数すなわち、経済的耐用年数や物理的耐用年数といった使用可能期間と全く無関係のところで決定されているということが明らかでしょう。

そもそも、法定耐用年数=使用可能期間というタテマエすら崩壊しています。

このようなものを、融資審査上で建物の使用可能期間として考えているというのは、いったいどのような根拠なのでしょうか?

ちょっと私には理解できません。

政策上の存在が、いつの間にか一人歩き

これまで見てきたように、現在定められている法定耐用年数には根拠がありません。

根拠は、全て政策上のものであって、建物の実際の使用可能期間と何らの関係もありません。

にもかかわらず、その数字と、「法定耐用年数」というそれらしい名前だけが独り歩きしている状況です。

いっそ法定耐用年数などという紛らわしい名前ではなく、「税金計算按分期間」などという名称に変更したほうが良いのではないでしょうか?

もちろん、税法に定められる以上、税金計算がそれに縛られるのは当然ですし、むしろ会社としても法定耐用年数は短いほうがよいです。

しかし、税金の計算と全く関係のない、融資の審査でこの法定耐用年数が、あたかも使用可能期間のごとく使われているのを見るにつけ、なんとも言えない気分になります。

せめて使用可能期間というなら根拠のある75年を使うべきであって、それ以降の短縮された法定耐用年数を使う根拠を教えてくれないでしょうか?

設備更新に資するとか、企業の内部留保を拡大するとかの理由で短縮された法定耐用年数を使用可能期間と同一視する根拠はなんでしょうか?

もちろん、銀行内のルールがそうなっているから銀行員はそれに従わざるを得ないのでしょうが、なんともはや…という感じですね。

一度定められたものが、その本来の趣旨と目的を超えて暴走しているとしか言いようがないと思うのですがいかがでしょうか?

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