法定耐用年数を超える融資はなぜ信用毀損?

いろいろな本やセミナーで、

「法定耐用年数を超える融資を受けると、信用を毀損する」

ということを聞きます。

しかし、一方で、地銀や信金で耐用年数超過の融資を受けている人はいるし、結局何がどうなっているんだろう?

と思っていましたが、最近ようやく本当のところがわかってきました。

法定耐用年数を超える融資は信用毀損?

耐用年数超の融資とは?

建物には、法定耐用年数があります。

RC47年、重量鉄骨33年、木造22年

などですね。

この、法定耐用年数を超過する融資を受けると、信用毀損を起こすとよく言われます。

例えば、築30年のRCに30年の融資を受けたらどうなるか?

RCの法定耐用年数は47年ですが、既に築30年ですので、残りの耐用年数、つまり残存耐用年数は17年です。
(ちなみに、17年しか償却できないというわけではありません)

これに対して30年の融資を受ける場合、融資期間の方が残存耐用年数よりも13年長いのです。

このような状態になったら信用毀損というわけですね。

耐用年数超過融資がなぜ信用毀損になる?

この状態がなぜ信用毀損といわれるのでしょうか?
(銀行によっては、債務超過と言ったりもします)

これは、銀行が既に保有している物件の収支が回るかを、審査上確認する際に発生します。

実は、銀行が審査上、この残存耐用年数内でしか家賃が生じない(あるいは、かなり掛目を入れる)と見るからなのです。

本来、その30年間の融資は、その期間の家賃収入で返済するというのが大前提です。

しかし、残存耐用年数の17年を超過する13年間は、家賃が入ってこないという前提で収支を組み立てます。

もちろん、30年間の返済契約は存在するので、結果として、17年間しか家賃収入は無いけど、借入金は30年間払うという収支計算になるのです。

そうなると、借入金の返済が完全にショートしてしますのは自明でしょう。

もちろん、17年間しか家賃収入が入らないというはずが無いのですが、銀行は融資審査上、このように考えるのです。

結果として、既に保有している物件の収支がそもそも回らないので、新たに融資することはできないという結論になり、融資を断られてしまうというわけですね。

積算が出ているということはあまり関係ない

築古の物件であっても、土地値として積算が出ていればよいのではないか?と多くの方が考えます。

それはそのとおりなのですが、銀行の言う信用毀損は上記の通り、将来に渡って収支が回るかどうかを重視したものです。

このため、現時点の断面において積算が出ていて土地値であるということは、正直そこまで重要視されていないようにも感じます。

融資する物件は、担保価値として積算は重視されることが多いですが、すでに保有している物件は、担保価値よりも収支の方が重視されていると感じます。

都市銀行や上位の地銀などは、このどちらも重視します。それ以下の銀行になると、保有物件の積算はそこまで重視しなくなる印象です。

でも、耐用年数超の融資を受けている人いっぱいいるよね?

とはいうものの、実際に残存耐用年数を超過する融資を受けている人はたくさんいます。

ノンバンクや一部の不動産に積極的な銀行もありますし、別に積極的でない銀行も、業者の紹介や属性によっては受けられることがあります。

銀行から実際に融資を受けているのに、銀行から見たら信用毀損って意味不明ですよね。

銀行によって目線が異なる

ノンバンクや信金地銀の一部は、積極的に法定耐用年数超過融資を行っています。

これは、各銀行ごとに異なった理屈があります。

土地値が十分に出ているので担保が保全できるとか、不動産鑑定評価によって長い経済的耐用年数を算出し、それを根拠に融資するとかですね。

また、資産家に対してのみ耐用年数超過融資をおこなう地銀もあります。

この場合は、資産家なので建て替え前提で保有できるという理屈があるようです。

あるいは、築浅の物件を他に保有している場合、その物件のキャッシュフローを見て耐用年数超過も取り組み可能と考えることもあるようです。

さらに、新築木造のみ30年の融資が可能だという銀行もあります。

これは、別に法定耐用年数に基づき融資することが法律というわけではないので、金融機関の独自性として融資してくれるところはあります。

さらに、同じ銀行でも時期によって異なることもあります。

一時期のみ法定耐用年数超過の融資が可能になるが、銀行内の規定が変わって不可能になるというのも実際何度か見ました。

つまり、銀行によって、時期によって、また個々人の事情によって状況が異なるということです。

この結果、どのような状況が生じるかというと、ある銀行から見たら信用毀損だけど、別の銀行から見たら別にそうでもないという事態が生じるのです。

また、ある時期では信用毀損ではなかったが、銀行の内規の変更によって信用毀損になるという場合もあります。

他の銀行がどのように見るか?という視点

この信用毀損を見る目線は、概ね銀行のランクによりますが、都市銀行はかなり厳しく見ますね。

他の地銀や信金であれば、かなり様々な考え方があり、ある銀行で耐用年数超過の融資を受けられても、それをある銀行が見たら信用毀損ということになるかもしれません。

このように、他の銀行が見たときにどう思うか?という観点で、耐用年数超過融資が信用毀損だと言われるわけです。

まとめると、結局どういうこと?

あくまで一般論として、耐用年数超過で信用毀損は正しい

まとめると、ある銀行から見ると信用毀損ではないけど、ある銀行から見ると信用毀損になっているというケースは頻繁にあることです。

また、個人属性や保有する資産によっては、毀損していないと判断されることもあったりします。

ただ、あくまで一般論としては、耐用年数超過の融資が信用毀損となるという点は正しいです。

これによって、新規の銀行に融資打診をした際に、これを根拠に断られるという事態が生じます。

何故かと言うと、これまで書いてきたように、耐用年数超過の融資というのは、行ってる銀行が結構特殊な理屈付けを行っているものです。

そのような特殊な理屈付けは他の銀行では通用しないことが多いです。

この結果、ある銀行から融資してもらえても、他の銀行から融資してもらえないというのは、一般的です。

結果として、「一般的には」残存耐用年数を超過する融資は信用毀損になるという言説は正しいといえます。

築古物件でも信用毀損にならないためには?

築古物件が信用毀損になるのは、融資の審査上、収入と返済のバランスが合わないためです。

このため、返済がなければ、築古物件であっても、信用毀損とはなりません。

現金購入であったり、短期間の融資を受けて早期に返済するなどの建て付けができれば、信用毀損とはならないでしょう。

余談:税務上の概念を立法趣旨を無視して審査に流用する奇怪さ

この残存耐用年数という概念は、正直税務上は使わず、ほとんどもっぱら金融機関から聞く概念です。

法定耐用年数は税務上の取り決めにもかかわらず、その趣旨を無視し、それを勝手に流用して審査が行われるのは正直理解に苦しむところです。

そもそも法定耐用年数というのは、費用性資産である「建物」や「設備」などの取得価格を、収益費用対応原則に基づいて各期に按分するための基準であって、それ以上でも以下でもありません。

あくまで費用按分の基準ですので、築50年のRCを購入した人は、これを47年間で減価償却することもできます。

本来、その建物の使用可能期間を見積もって償却すればよいのですが(現に、国際会計基準IFRSはその様になっています)、それでは課税上の公平と簡便性を維持できないという理由で定められた、完全に国税徴収サイドの理屈で決定されているものです。

別に、47年超のRCがその瞬間に消えてなくなるわけではありませんし、突如崩壊して砂になるわけでもありません。

経済的耐用年数や物理的耐用年数とは全く別の概念です。

そもそも当初法定耐用年数が制定された際には、物理的耐用年数を加重平均するなどの根拠付けもある程度ありましたが、現状のRC47年などはそもそもなぜ47年なのか、正直に言うと根拠すら曖昧です。

そのようなものを後生大事に使う理由が私にはどうしてもわかりません。

とはいいつつも、多くの金融機関がそう考えているので、それは仕方ありませんね。

© 2024 和田晃輔税理士事務所