法人は任意償却なので減価償却費は計上しなくても良い?

最近、「法人は任意償却だから減価償却はゼロでいいんですよね」

という方がいらっしゃいます。

一方で、それは粉飾決算のよう

なものだという方もいます。

正直、かなり混乱した言説が飛び交っています。

なぜ減価償却をゼロにできないのかといった疑問が生じるのか、そして本当に
ゼロで良いのか考えてみようと思います。

結論から申し上げると、

「よほどのことでもない限りはゼロはだめでしょう」

ということになります。

なぜ減価償却費をゼロにしたいのか

本来、減価償却費は不動産投資において極めて重要な役割を果たします。

それは、デッドクロスに代表されるように、減価償却費と元金返済のバランスが崩れてしまうと、納税額が大きくなりすぎるためです。

このため、減価償却費は本来適切に計上することが不動産の経営のためにも重要なのですが、一方で、ゼロ、あるいは極めて小さくできないかと考える方もいるようです。

不動産投資において、減価償却費をゼロにしたい理由は概ね2つあるように思われます。

  1. 黒字決算にしたい
  2. 短期間での売却を見込むので減価償却をしなくとも良い

黒字決算にしたい

減価償却費は経費ですから、それをゼロ、つまり計上しないということは、利益が増えるということです。

このようにして、利益を増やすために行われることが多いです。

利益を増やすと税金が増えてしまうのだから、何のためにやるのかと言うと、銀行融資を受けるためですね。

通常、銀行は赤字の会社に融資を行いません。3期連続黒字くらいが融資を受ける大前提になってきます。

このため、普通に減価償却費を計算すると赤字だけど、どうしても黒字にしたいであったり、もっと黒字幅を増やして銀行からの評価を上げたいという誘惑が働くことになります。

また、減価償却によって建物の帳簿価格が切り下げられるため、それを上回る利益を上げておかないと、債務超過になってしまうかもしれません。

そうなると追加の融資など夢のまた夢ですし、債務超過にならずとも純資産を厚く確保することで銀行評価を上げたいという考え方もあるでしょう。

短期間での売却を見込むので減価償却をしなくとも良い

キャピタルゲイン狙いで不動産を購入し、数年間の短期間で売却を見込んでおり、かつ手元現金もある程度潤沢な場合も減価償却をするメリットは大きくありません。

なぜなら、減価償却によって簿価が切り下がるため、結局売却時に納税することになるからです。

そうであれば、別に償却せずに持っておいてもよいのではないかと思われるわけですね。

また、法人の税率は利益800万円を境として10%ほど上昇します。

減価償却により物件売却益が多額になってしまうと、売却時に多めに税金を払わなければならない可能性もあるというわけです。

結果、別に償却なんてしなくても良いのでは?という考えもありえます。

なぜ減価償却費がゼロでも問題ないと言われるのか

では、減価償却費がゼロにしても問題ない、言い換えると、減価償却費を恣意的に計上しても問題ないという人は何を根拠にしているのでしょうか。

それが、法人税法では任意償却が認められているから、つまり減価償却費の計上は任意なんだから、してもしなくても良いというものです。

以下がその任意償却の規定です。

法人税法第31条

内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。

つまり、法人税法で規定する金額(償却限度額)以下であれば、どのような数値で減価償却費を計上しても、それを認めるというのです。

言い換えれば、法人税法では減価償却費の上限のみを定めており、下限は定められていないとも言えるでしょう。

もちろん、減価償却費をゼロとするのは、法人税法で規定する上限金額以下ですから、何ら問題ない、税務署から「ゼロなのはおかしい」と言われることは無いということです。

ここから、法人税上は任意償却であるから、決算書上減価償却費の計上はゼロでも良いのだという解釈が出てくるものと思われます。

法人税の趣旨と企業会計の原則から逸脱している

率直に書いてしまうと、上記のような法人税法の規定により減価償却をゼロとするのは、法人税の趣旨から完全に逸脱しています。

そもそも、法人税法はどのようにして法人税を計算するようにと規定しているのか見てみましょう。

法人税法第22条

内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 省略
3 省略
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

ここで、法人税は、法人の益金(収益)から損金(費用)を差し引いて計算することが要請されています。

そして、その収益と費用は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるのです。

つまり、法人税を計算する前段階として、妥当な会計基準に従って計算した決算書の存在が不可欠なのです。

では、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準において、減価償却費はどのように規定されているのでしょうか。

企業会計原則 第三 貸借対照表原則 五 資産の貸借対照表価額

資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分し、無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならない。繰延資産についても、これに準じて、各事業年度に均等額以上を配分しなければならない。

上記のように、企業会計原則において、減価償却を行うべきことが定められています。

また、私自身、減価償却費を計上しないことを是認する会計理論を見たことがありません。

つまり、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準において、減価償却費は必ず計上しなければならないものなのです。

なぜ法人税法が、減価償却費の上限のみを定め、下限を定めなかったのかは、この点から明らかになるでしょう。

そもそも、法人税の計算自体が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に基づいてされるわけですから、減価償却費が計上されないこと自体を想定していないのです。

一方、いくら減価償却費とはいっても大きく計上する操作を認めてしまうと、納税者間の公正が維持できないので、上限は定めているというわけです。

このように見てくると、確かに法人税法は減価償却費を計上しないことを罰したりはしませんが、それは認めているのではなく、そのそも前提となる決算書が間違っているというに過ぎません。

会計原則に反しており、粉飾決算と言われても仕方がない

正確に理解しておきたいことは、あくまで法人税法は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って作成された決算書を前提としているということです。

この会計基準に従わず、減価償却を計上せずあえて黒字にするなどの行為は、粉飾決算であると言われても仕方がありません。

粉飾決算とまでは言われないまでも、近年問題になることが多い、「不適切な会計処理」であることは間違いありません。

というのも、企業会計原則において、減価償却費を計上することが定められているわけですから。

これを、法人税では任意償却だからゼロでもオッケーと言ってしまうのは、制度の成り立ちを無視した、非常に危険な考え方です。

もちろん、外部株主や銀行借り入れが無いのであれば、好き勝手しても良いでしょう。また、借り入れしている銀行がそのような操作を認めており、かつ他の銀行から借り入れをする予定も無いなら別にいいのかもしれません。

しかし、銀行から借り入れをしており、そこに対して説明をする際に、「任意償却だから減価償却費を計上していません」などと言ってしまうと、非常に印象は悪いでしょう。

不適切な会計処理で多くの上場会社が非難されたような目で、あなたの法人も見られることになるのです。

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