不動産投資で法人を設立初年度から黒字にする方法

法人で不動産を購入した場合、初年度だけはどうしても赤字になってしまう

という悩みを聞くことが多いです。

しかし、実際のところ、大半のケースで黒字にすることができます。

法人の設立初年度を黒字するメリット

不動産投資を法人でされる方が、設立初年度から黒字にしていきたいという要望
は比較的よく聞きます。

やはり、今後の融資を見据えてのことでしょう。

基本的に、融資を受けるためには黒字の決算書が必要になります。
大原則として、融資を受けるためには、黒字の決算書が3期分必要です。

このため、初年度が赤字になってしまうと、3期分黒字にするためには、
4年間の歳月が必要になってしまうというわけです。
一方、初年度を黒字にすれば、3年間で3期黒字とすることができます。

もちろん、赤字になった理由が一過性のものであれば、それをきちんと
説明すれば理解してくれることもあるでしょうが、第一印象としてダメですし、
そもそも詳しい話を聞いてもらえないこともあります。
(よほど属性に優れればよいのでしょうが…)

このため、黒字にできるなら黒字にしたほうが良いでしょう。

もちろん、粉飾決算など論外ですが、きちんとルールに基づいて正当に黒字に
することもできます。

法人の設立初年度で赤字になる理由

法人が設立初年度で赤字になってしまう理由は、以下の通りです。

不動産の取得時の諸経費で赤字になる

不動産を購入した場合、以下のような多くの経費がかかります。

  1. 仲介手数料
  2. 固定資産税の清算金
  3. 司法書士報酬
  4. 登録免許税
  5. 印紙税
  6. 不動産取得税

この内、1仲介手数料と2固定資産税清算金はそもそも資産に計上
すべきものですので、損益に影響ありません。
(これも経費にしている税理士もまれに見ますが…明確な誤りです)

3司法書士報酬~6不動産取得税は多くの場合、不動産を購入した期で
経費されていますね。

特に、登録免許税と不動産取得税が大きな金額になることが多いので、
その影響で赤字になってしまうというわけですね。

物件によりますが、これらの登録免許税や不動産取得税による赤字を解消する
のに、数年間を要するようなケースもありますね。

法人の開業費で赤字になる

法人を設立した際には、ある程度コストがかかります。

  1. 司法書士報酬
  2. 法人の印鑑代
  3. 登録免許税
  4. その他法人設立前の交通費や家賃など

合同会社か株式会社かによっても金額は異なりますが、これらも
支払時の経費とすることが多いので、設立初年度の赤字の原因になります。

合同会社ではそうでもありませんが、株式会社であれば20万円を超えたりも
しますので、結構重たいですよね。

賃貸に出すための修繕費が重たい

古い物件を購入した場合、購入してからすぐにある程度の修繕費が生じる
ケースがあります。

共用部から部屋のなかまである程度手間をかけていくと、結構な金額になります。

これも、経費に計上することが多いですが、そうするともちろん単年度の
家賃で回収することは難しいことも多いので、赤字の要因になります。

法人の設立初年度で黒字にするための対策

このように、不動産を購入した初年度は、ただでさえ経費がかさみがちですが、
黒字にできないというのは大きな勘違いです。

企業会計上、または税法上、支払った支出について、それを経費に計上するのか、
それとも資産に計上するのか選択することができるものがあります。

この選択可能性を活用して、資産にできるものは極力資産にするという
選択をすることになります。

もちろん、経費に計上した場合はその年の費用になりますが、資産に計上した
場合は、減価償却を通して各期の費用になることになります。

不動産の取得時経費をどうするか

先程も記載した通り、不動産の取得時経費とは以下です。

  1. 仲介手数料
  2. 固定資産税の清算金
  3. 司法書士報酬
  4. 登録免許税
  5. 印紙税
  6. 不動産取得税
  7. 火災保険料

概ね、中古物件であれば、構造にもよりますが、売買価格の5~7%が
これらの取得時経費として発生することになります。
これを一気に経費にしてしまうと、通常は家賃収入ではカバーしきれないので、
法人が赤字になってしまう高いです。

1.仲介手数料と、2.固定資産税清算金は、資産に計上する以外の選択肢は
ありません。ここを経費にしてしまうのは、単なる誤りなので気をつけましょう。

それ以外の、3.司法書士報酬、4.登録免許税、5.印紙税、6.不動産取得税
については、資産に計上するか経費に計上するか法人の意思で選択することができます。

ということは、不動産の取得経費の全てを資産に計上することができます。

そうすると、その全額が経費にならないので、これだけでも法人の初年度が赤字になる
ことはあまりないでしょう。

3~6のような経費は一般的に経費として処理されますし、経費にしかできないと
思い込んでいる税理士も多いです。

それは何故かと言うと、日本の会社や税理士には、経費至上主義という考え方が
あるためです。

基本的に、経費にできるものは経費にする、それが節税にもなるし、保守的な会計処理
でもあるという考え方です。

その考え方は一面では正しいですが、本来安定的に売上が生じるようになってからそう
すべきであって、設立間もない会社が画一的に同じ取扱を受けるのは不利と考えます。

また、念の為、資産とすることができる根拠を以下に示します。
興味がなければ読み飛ばしてください。

大蔵省企業会計審議会
企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書3 第1-4-1

固定資産を購入によって取得した場合には、購入代金に買入手数料、運送費、荷役費、据付費、試運転費等の付随費用を加えて取得原価とする。但し、正当な理由がある場合には、付随費用の一部又は全部を加算しない額をもって取得原価とすることができる。

法人税法施行令第54条

減価償却資産の取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ各号に定める金額とする。
一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、
関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その
費用の額を加算した金額)
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

法人税法基本通達7-3-3の2

次に掲げるような費用の額は、たとえ固定資産の取得に関連して支出するものであっても、これを固定資産の取得価額に算入しないことができる。

(1) 次に掲げるような租税公課等の額

イ 不動産取得税又は自動車取得税
ロ 特別土地保有税のうち土地の取得に対して課されるもの
ハ 新増設に係る事業所税
ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用

(2)、(3)省略

結局、本来法人税法上の例外として認められている取得諸経費の経費計上が、
一般化してしまっているだけというわけですね。
本来資産計上が企業会計における原則的な考え方なのです。

法人の開業費をどうするか

法人を設立するために支払った経費は、創立費や開業費に該当します。
これらの創立費や開業費をまとめて、繰延資産と呼びます。

繰延資産である創立費は、支出した期で経費とすることもできますが、
繰延資産として5年間で償却することもできます。
また、税務上は任意の時期での一括経費化も認められています。

このため、初年度については創立費として資産計上し、償却していけば
良いということになります。

5年間で償却するとすると、1年あたりの償却額はかなり小さいので、
損益に与える影響も非常に小さくなります。

ただ、創立費については、特に合同会社などでは非常に小さいので、経費に
してしまっても良いかもしれません。

企業会計基準委員会実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い (3) 創立費の会計処理

創立費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理する。ただし、創立費を繰延資産に計上することができる。この場合には、会社の成立のときから 5 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない。

法人税法施行令第六十四条 繰延資産の償却限度額

繰延資産の償却限度額は、次の各号に掲げる繰延資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 繰延資産の範囲に掲げる繰延資産 その繰延資産の額

大きな修繕費が発生した場合どうするか

大規模修繕や金額の大きい修繕が生じた場合は、その内容について精査し、
資産計上が可能なものが無いか検討しましょう。

つまり、払った金額を経費とするのではなく、建物や構築物、機械装置など
の固定資産として計上するというわけです。

それによって、払った金額の全額が一時の経費になりませんので、
初年度の赤字を圧縮することができます。

大規模修繕や大きな修繕については、その修繕が建物の使用可能期間を延長
したり、価値を新たに上昇させるようなものであれば、資産に計上し、
通常の維持管理や原状回復のものであれば経費にするという考え方が大原則です。

このため、ボロ物件を購入して、きれいに修繕したのであれば、その支出を
資産として計上する十分な理由があります。
というか、逆に経費にするほうが十分な理論武装が必要でしょう。

なぜか法人税における考え方が蔓延していますが、本来、ある支出が
固定資産であるか経費であるかどうかは、法人の意思決定に属するものです。

法人税法における考え方も大切ですが、それだけにとらわれないようにもしましょう。

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