ここまでの記事では、売買契約書に土地建物の金額が記載されている場合、および売買契約書に記載があっても否認された事例を確認しました。
ただ、不動産の売買契約書において、土地と建物の価格が明確に記載されていないケースは少なくありません。しかしこの状態では、税務上の申告において問題が生じる可能性があり、特に建物部分の取得価格が不明瞭なままでは、減価償却費の計算や譲渡所得の算出に影響が出てしまいます。
この記事では、売買契約書において土地建物の金額が分かれておらず、土地建物合算金額の記載しかない場合に、どのように土地と建物の金額を「按分」すればよいのか、そしてその際に気をつけるべき税務上のリスクと実務上のポイントについて、税理士の視点からわかりやすく解説します。
目次
土地建物が一体の契約書とは?
土地建物が一体で記載されている契約書とは、売買契約書に土地建物の金額が明記されていない契約書になります。
具体的には、下記のような標準的契約書で考えると、赤線で囲っている部分の売買代金総額にのみ金額の金額があり、それ以外の欄にが空欄だったり、バーやゼロと記入されているケースですね。
注意が必要なのは、土地と建物の金額が記載されていないが、消費税額が契約書上に記載されている場合です。
例えば、土地代金と建物代金の記載がなかった、あるいはゼロと記載されていたとしても、その下の(うち消費税額及び地方消費税額の合計額)の欄に金額の記載がある場合、これは土地建物の金額が記載されていることと同義になります。というのも、この消費税額から建物金額を計算することができるからですね。
例えば、売買代金総額が1億円(税込)で、消費税額に400万円と記載されている場合はどうでしょうか?この場合、現在の消費税率は10%ですから、
建物の税抜き金額×10%=400万円
ということですね。
そうすると、400万円÷10%=4,000万円が建物の税抜き金額になるわけです。そうすると、4,400万円が建物の税込み金額ですね。
税込みの売買代金総額は1億円のわけですから、1億円-4,400万円=6,000万円が土地の金額になるということです。
この場合は、売買契約書に土地建物の金額が記載されており、それ以外の金額を税務申告上採用することは基本的にできませんので、注意してください。
なぜ土地建物を按分する必要があるのか?
売買契約書上において、土地建物が合算されている場合、なぜ税務上および賃貸経営上の問題が生じうるのでしょうか。これは、減価償却できるのは建物だけだからですね。
つまり土地は、購入してから保有している限り、購入金額が経費になることはありません。いつ土地が経費になるのかというと、これは売却した時ですね。
売却した時の土地の簿価が、不動産売却益を減少させることになりますから、その結果として土地は経費になることになります。
一方、購入した建物だけが保有期間中に減価償却ができるようになるわけです。ですので、土地の金額と建物の金額を分ける必要が出てくるわけです。
ただ、この分けるときに適当な数字を出して自分で分けることはできません。
建物の金額は、「合理的に説明できる金額で」分ける必要があります。
というのも、建物の金額が不明確な場合、減価償却費を適切に計算することができず、税務上の経費の金額が不正確になる可能性があります。ですので、申告の妥当性に直結する問題になってくるわけですね。
また、建物の金額を過小評価してしまうと、本来計上できる減価償却費を少なく見積もってしまい、結果として利益が増加する可能性があります。逆に、建物の価値を過大評価すると、経費が不当に大きく、結果として利益が過少になりますから、過少納税となってしまい、税務署から不当な減価償却費の計上として指摘を受けるリスクが高まります 。
また、土地と建物の金額が明確に区分されていない場合、投資家は減価償却を通じて課税所得を適切に減らすことが難しくなります。まれに、土地建物が一括で記載されている契約において、その全額を土地や建物のどちらかに計上しているケースもあります。これは、全額土地にしてしまうと短期から中期にかけて税負担が増加する要因となりますし、全額建物である場合は明らかに減価償却費が過大ですから、当然税務上の問題を引き起こすことになります。
これは、デッドクロスの問題に直結するわけですね。減価償却費はデッドクロスと切っても切り離せない関係にあります。減価償却が過少になるとこの問題に直結し、賃貸経営に大きな影響を及ぼしてしまいます。一方で、デッドクロス対策として建物の金額を勝手に大きくしてしまうと、それは税務上不適切なので、当然否認されるなどの形で影響がでます。
建物金額が過大で、過去の減価償却費が過大であったとなると、結構悲惨です。過去にさかのぼって税額が追徴されるのはもちろん、過少申告加算税や延滞税が課せられます。
また、何より大きいのは賃貸経営上の計画が全く狂ってしまうことでしょう。毎年このくらいの減価償却がでる、ということは賃貸計画上最も重要な要素です。これが事後的に変動してしまうようでは、計画も何もあったものではありません。
このように、税務上の適切性を担保するためにも、賃貸経営を安定的に行うためにも、土地建物の金額をどう分けるか、というのは重大なテーマになっています。
按分の4つの方法とそのメリット・デメリット
それでは、売買契約書上土地建物の金額が分かれていない場合に、どのようにこれを分けるか、按分するかという点について解説していきます。
売主買主間で事後的に合意をする方法
売買契約書にかけなかったとしても、別に合意書を作成するという手もあります。これは、売買契約の締結後であっても特に問題はありません。
前の記事で記載したように、売買契約書に記載された土地建物金額が基本的に認められるのは、市場価額が無い不動産では、売り手と買い手が合意した金額がまさに時価であって、その記載した金額が時価であると強く推測されるからですね。
ですので、事後的に合意書などによって土地建物の金額を明示できれば、これも売り手と買い手の合意した金額なわけですから、認められる可能性は高いでしょう。
もちろん、売買契約書の記載金額が否認された事例でも説明した通り、金額を明示したら必ず認められるかというとそういうわけでもない点は注意が必要です。
ただ、この合意書ですが、意外と作成が難しい印象があります。というのも、売買契約締結後に、こういった合意書を作成するメリットというか、インセンティブが売主にも、あるいは仲介業者にもありません。というのも、売買契約書が締結された以上、その履行は必ずしなければならないのであって、合意書が作成されないなら契約を解除する、というような手段はとれません。ですので、そのような要求に売主が応じる必要性は全くありません。あくまで買主側の「お願い」にすぎないわけで、売主のお慈悲によってのみ実現できることです。
また、仲介業者にとっても、そのような対応をしても別に報酬がもらえるわけでもありませんし、そのような交渉をまたやって時間と労力をとられるのもおっくうなのは当然でしょう。さらに、前述の通り売主に何もメリットが無いので、交渉のテコもありません。一応売主に電話はしてくれるかもしれませんんが、適当に断られたらそれで終わりでしょう。
私自身、何度かこういった土地建物金額を記載した合意書を作成するお願いをしたことがありますが、売買契約前ならまだしも、契約後に対応してもらえたことはありません。
やはり、こういった問題は、売買契約を締結する交渉の中で行っておくべきであって、事後的にやろうとしてもなかなか難しいというのが本音です。
また、この合意書による取り決めは、仲介会社の事情で売買契約書に土地建物金額を記載できない場合に採用することも有効です。
とりわけ大手の不動産会社になると、売買契約書自体に本社の審査が入り、その審査部が問題視する事項は記載できないということがあります。土地建物の金額もこうなるケースがあり、例えば固定資産税評価額按分より大きな金額を建物金額に記載したいようなケースでは、売主買主は問題なくても、仲介会社の審査が通らないからかけない、というケースがあります。
そういった場合において、仲介業者が責任を取る必要が無い合意書を別途買主側で作成し、売主買主で合意してしまう、というのも選択肢としては有効でしょう。
不動産鑑定評価書を用いる方法
次に、不動産鑑定評価書を用いる方法を見てみましょう。
土地と建物の価格が契約書に記載されていない場合で、かつ別途の合意書も作成できない場合、もっとも信頼性が高い按分方法のひとつがこの「不動産鑑定評価書を用いる方法」です。
不動産鑑定士は国家資格を持つ専門家であり、その評価書は第三者の立場から適正な価格を算定したものとみなされます。このため、税務署に対しても客観的かつ合理的な根拠として受け入れられやすいという特徴があります。
路線価の算出などにも不動産鑑定士はかかわっているわけですからね。
しかし、実は鑑定評価が認められなかった事例はあります。
これは、当初申告時に近隣取引事例などにより土地建物価格を算出し、それが認められたかどうか国税と争う際に不動産鑑定評価額を提示して争ったものです。
どのような内容か、見てみましょう。
H27.6.1国税不服申立所裁決、H27.6.11大阪地裁棄却棄却確定
確かに、鑑定評価による価額を用いたあん分法も土地と建物等の取得価額を区分する方法として、一応の合理性が認められる方法である。しかしながら、本件K評価書における評価額は、次のとおり、必ずしも合理性のある算出価額とはなっていないものと認められる。…(以下合理的でない理由が続く)
原告は、社団法人Mの会員が作成した不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)をその主張の根拠とするところ、本件鑑定書は、①積算価格(再建築調達費)と収益価格の差額を理由なく全て建物に加算していることや、…中略…、本件土地については何ら問題が見当たらないことに照らせば、なぜ増加分全てが建物に帰属することが妥当であるかについて何ら理由が示されていないなど、不合理である。
このように、不動産鑑定評価額による按分それ自体は一定の合理性を有すると認めたうえで、鑑定評価の内容に関し瑕疵を指摘して否定いるわけです。
したがって、鑑定評価による按分を否認する場合、鑑定評価書の瑕疵を指摘せねばならず、否認のハードルはかなり上がると考えられます。
このため、固定資産税評価額按分額から著しく乖離しない限り問題ないでしょう。やはり鑑定評価が否認されるようなケースは例外的であって、その内容は基本的に信用されます。
鑑定評価には結構お金がかかる(数十万円)のですが、例えば物件の規模が大きいようなケースでは、依頼する価値はある場合は多いと思います。
ただ、不動産鑑定評価額により按分しても、結果的には固定資産税評価額按分と近似することはしばしばあることです。
事前にどの程度の按分になりそうか概算してもらい、鑑定評価を依頼する価値があるか判断しましょう。
また、鑑定評価には、本鑑定や簡易鑑定などいろいろ種類がありますが、本鑑定の場合、作成に2週間程度は最短でも要します。そうすると、決算後申告期限前に依頼するようなケースでは、申告期限に鑑定評価書の完成が間に合わないケースもありうるでしょう。
事前に税理士と相談し、鑑定評価を取ると判断する場合は、決算前に依頼しておく必要があります。
また、この判例もそうですが、不動産鑑定評価が否認される事例も実はそれほど珍しくはありません。税務署内には不動産鑑定評価書の内容の妥当性をチェックする体制が整えられています。
実際問題として、土地建物の金額を、建物を大きくしたいというような動機で鑑定評価を依頼し、かつ鑑定士が知り合いであるようなケースでは、意外に柔軟に金額を付けてもらえたりすることもあるわけです。こういったケースにおいては、鑑定評価の瑕疵を指摘される可能性は当然あります。
このため、不動産鑑定評価書が著しく不合理な場合、否認される可能性は十分にあるので、この点は注意しましょう。
■ メリットと注意点
メリット:
①税務署から否認されにくい高い信頼性
②評価基準が明確で、他の方法よりも納得性が高い
③トラブル発生時の説明責任にも対応しやすい
注意点:
①不動産鑑定には一般的に数十万円程度の費用がかかる評価期間や準備に一定の日数が必要
②スケジュール上間に合わなかったり、費用対効果が合わない可能性もある
路線価や公示価格を用いる方法
不動産の売買契約書において、土地と建物の価格が明確に区分されていない場合、税務上は適正な按分が必要となります。鑑定評価書を利用する方法がもっとも信頼性の高い手段である一方、コストや手間がネックになるケースも多く見られ、実際問題として鑑定評価を毎度取るというわけにもいきません。
そういったケースで、特に建物をできるだけ大きくしたい、というようなケースで検討される方法が、「路線価や公示価格といった公的指標を用いた按分方法」です。
路線価は、国税庁が毎年公表する、相続税や贈与税の評価のための土地価格。主に市街地の道路に面する宅地に対して設定され、1㎡あたりの単価で表示されます。
公示価格は国土交通省が公表する、1月1日時点での標準地の価格。地価の目安として一般的に用いられます。
いずれも国が自分で公表している不動産の価額ですから、これを使えば税務署も文句は言えまい、ということですね。
とはいえ、路線価も公示地価も土地の価額であって、建物の金額はわからないわけですが、どうやるのかというと、
土地か建物いずれかの金額(再調達価格)、通常は土地の金額を算出し、その金額を売買金額からマイナスして残りの建物の金額を出すことになります。
例えば、売買価格が1億円、土地が300㎡、路線価150千円/㎡とすると、
土地:300✕150千円÷0.8=56,250,000円
建物:100,000,000-56,250,000=43,750,000円
このように先に土地の金額を出し、その差し引きで建物を決めていくわけです。
土地の路線価を÷0.8しているのは、路線価は公示地価(つまり時価)の80%程度になるよう設定されているからです。これによって、路線価から公示地価相当額を概算しているわけですね。
公示地価は路線価のようにすべての土地に設定されている、というわけではないので、特定のポイントで時価を算出しているものですので、使いにくい側面があります。そういった場合、路線価からの逆算により公示地価相当額を計算する、という方法をとるわけです。
この他に、固定資産税評価額から土地の実勢価格を算出する方法もあります。
この他に、建物価格を先に算出することもありえます。
売買価格が1億円、築25年、建物が600㎡、建物の再調達単価200千円/㎡とすると、
建物:200,000×600×25÷47=63,830,000円
土地:100,000,000-63,830,000=36,170,000円
となるわけです。
この方法を採用する場合、通常は土地をまず算出し、取引総額から土地金額をマイナスして建物金額を算出する、というケースが多いでしょう。
このような方法を、金額をマイナスして求めることから「差引法」といいます。
しかし、差引法は、合理性の程度でいうといささか低くなってしまいます。このため、とりわけ土地を先に計算し、建物を差し引きで求めた差引法が否認された事例は多くあります。
平成12年12月28日 国税不服審判所裁決
その基礎とする土地の価額を当該物件の全体の取得価額から控除して当該建物の取得価額を算出するか、その基礎とする建物の価額をそのまま当該建物の取得価額とする方法(以下「差引法」という。)のいずれの方法によることが合理的かを検討する必要がある。
そこで、本件物件について検討すると、マンションは土地及び建物が不可分一体となっており、差引法では、通常の販売価額よりも高額又は低額で販売された場合、一方の価額が実態から著しくかけ離れた価額となる場合がある。
例えば、路線価から算出する方法の場合、土地を路線価を基礎とした積算価格を土地価格とすることになります。
普通、収益物件は積算価格とイコールではない(積算を超える)場合が多いので、積算と売買価格との差額がすべて、売買価格-土地価格で計算される建物にすべてしわ寄せされてしまうのですね。
つまり、土地建物全体の付加価値であった部分が、全て建物に上乗せされるので、必然的に建物の金額が大きくなってしまうというわけです。
このように、土地建物の積算金額と売買金額の差額をすべて建物に上乗せする合理性は通常認められないので、この方法は調査時の時価証明力という点では、かなり弱いと言わざるを得ません。
以前はこの方法を推奨していた税理士も、最近はリスクが高いと判断され、この方法を勧めることはほとんど無いのではないでしょうか。
また、現実問題として、公示地価は時価よりも低い、という点もあります。路線価が実際の時価よりかなり低くなる傾向にあるのは、そもそも路線価算出の基礎となるべき公示価格が時価より低い傾向があるからなのですね。
そのようなわけで、やはりそもそも時価より低い公示地価を用いて土地を出し、その差額を建物とするのは、合理性に欠けると言わざるを得ない側面があります。
このため、固定資産税評価額で按分した結果との乖離が大きくなる場合は、固定資産税評価額で按分したほうが安全といえます。
次に記載しますが、固定資産税評価額が結局のところ非常に重要な基準になってくるためです。
■ この方法のメリットとデメリット
メリット:
①公的な価格指標を使うため、税務署に説明しやすい
②鑑定評価よりも簡易で、費用をかけずに按分可能
デメリット:
①建物価格が“差額”で求められるため、合理性が
②公示価格がない地域や地価が把握しづらい地域では使いにくい
デメリットの合理性の欠如が大きすぎるので、この方法はよほどの事情が無い限り、通常は使用しないことをお勧めします。
固定資産税評価額による按分
不動産の売買契約書において、土地と建物の価格が分かれていない場合、現実的かつ実務上もっとも多く採用されているのが「固定資産税評価額による按分方法」です。
この方法は、毎年自治体から送付される「固定資産税課税明細書」に記載された評価額を基に、土地と建物の価格比率を求めて按分するというものです。手軽で合理性もあるため、個人間売買や低額不動産の取引などにもよく利用されています。
固定資産税課税明細書は自治体によってフォーマットが異なるのですが、東京都では以下のようになります。
これに記載のある「価格」というのが、固定資産税評価額となります。
勘違いしやすいのですが、「固定資産税課税標準額」は固定資産税評価額とは別物なので、注意しましょう。ここを間違えると、土地建物の金額の設定を大きく誤ることになります。
どのように計算するかは簡単で、
取引金額:1億円
土地の固定資産税評価額:2千万円
建物の固定資産税評価額:3千万円
のようなケースでは、1億円×2千万円/5千万円=4千万円が土地の金額になる、というような形ですね。
また、最もよく利用される方法であるのは、税務署と係争になった際には、必ずと言っていいほど固定資産税評価額での按分になってしまうからです。
売買契約書に土地建物金額の記載がなく、国税と争った場合、よほどの特殊事情がない限りこの按分方法に流れつきます。
なぜこの方法が課税上多用されるのでしょうか?
それは、別にこの方法が最も正しいからではなく、あくまで課税する上で大変便利であるからにすぎません。(つまり、最も手軽に合理性を確保できる)
裁判例で確認してみましょう。
H13.12.14福岡地裁棄却確定、H27.6.1国税不服審判所裁決
固定資産税評価額又は相続税評価額を基礎とする方法は、特に中古物件の場合簡易、迅速に土地及び建物の価額を把握し按分することができること、固定資産税評価額は、土地にあっては路線価と同様に地価公示価額や売買実例等を基に評価し、建物にあっては再建築価額に基づいて評価しているから、土地及び建物双方とも時価を反映し得るものと考えられることなどの利点を有するだけでなく、土地及び建物の双方とも同一時期の時価を反映していると考えられるなどの点において一層の利点があり、土地及び建物の適切な価額比の算出方法としてより合理的といえる。
とはいえ、固定資産税評価額による按分が最も正しいとは言えなくても、最も合理的であるというのはその通りですし、これを上回る合理性を提供できない限り、固定資産税評価額按分にならざるをえない側面が確かにあります。
売買契約書に土地建物金額の記載が無い場合、固定資産税評価額按分が合理的というのは確かにその通りという側面はあり、これに反論するには、正直鑑定評価を取るぐらいしか手は無い、というのもまた事実ではあります。
ですので、実際問題として、固定資産税評価額による按分をせざるを得ないケースがほとんどなのではないでしょうか。
ですので、不動産を購入し、売買契約書に土地建物の金額が区分されていない場合は、固定資産税評価額按分で建物を算出し、その減価償却費を基礎として、事業計画を作成するようにしましょう。税務署と戦って固定資産税評価額按分で無い方法を認めさせてやる!と息巻いても不可能に近いので、これを前提として計画を立てておくべきです。
それか、最初からきちんと不動産鑑定評価書を取り、その範囲内で土地建物の設定を行う、という対応が取れればそれでよいのですが、一方でそうしない場合は、固定資産税評価額按分を前提に進めていくことになります。
一方で、土地値の高い首都圏や、築古の物件においては、固定資産税評価額で按分すると建物金額が極めて小さくなることが多いです。そうすると減価償却費が取れず、デッドクロスなどの問題を引き起こすことになります。
ただ、これの回避のためには、基本的に売買契約書に土地建物金額を記載するという手段しか取れないことが多いです。なぜなら、こういった物件は鑑定評価をとってもそれほど建物が大きくならないからです。
このあたりのことは、売買契約書を締結後にどうにかしようとしてもハードルが高いので、売買契約締結の前段階で対応しておく必要があります。
■ メリットとデメリット
メリット:
①手軽で実務的。ほとんどの不動産で評価額の資料が入手可能。
②税務署にも一定の合理性があると受け取られやすい。
③高額な鑑定評価費用が不要。
デメリット:
①建物の取得価額が実態より小さくなる傾向がある。
②減価償却可能額が少なくなり、節税効果が薄れる可能性もある
土地建物の按分方法として実は認められない方法
税理士として、実務上、しばしば見るのが、例えばその取引の仲介をした媒介業者が、土地建物の金額を証明するとして証明書などの文書を発行しているケースですね。
仲介会社も売買契約に関与しており、物件の価額についてある程度の知識を持っていると考えられます。実際に、宅地建物取引業者は、売買契約締結時に交付する37条書面に代金の額を記載する義務があり、消費税額についても記載する必要があります 。
しかしながら、税務署が土地と建物の金額区分を判断する際には、より客観的な根拠を求める傾向があります。宅建業者の証明書も一つの参考資料にはなり得るかもしれませんが、それだけでは十分な根拠とならないでしょう。
例えば、税務調査において、土地建物の金額の算出根拠を求められた際、不動産鑑定評価書を提出した場合はそれが認められる可能性は高いと思われますが、媒介した宅建業者の証明書を提出しても、「何これ?」くらいの感じになってしまうイメージです。
そもそも、宅建業者は不動産の時価を算出する特別な資格であるという前提がありませんので、その宅建業者に時価を証明してもらうこともまた難しいということになります。
また、税務署からその宅建業者に反面調査が入っても、おそらく合理的な根拠は見つからないか、見つかってもこれまで見てきたような、差額法や固定資産税評価額による按分でしょう。別に宅建業者が証明書を出したからと言って、差額法が有効になるわけでもありませんし、固定資産税評価額按分より建物を大きくしたようなケースでその合理性を説明するようなものにもなりません。
この点は注意しておきましょう。