個人の不動産オーナーは土地利子の特例に要注意

最近は個人で不動産を購入する際に、個人名義の方が融資を出しやすいというような銀行も出てきているので、以前に比べて個人で不動産投資を始める人が増えてきています。

もちろん、法人であっても個人であっても不動産投資を始められるのであれば、それに越したことはありません。

ただ、個人には不動産投資をするにあたって注意する点がいくつかあります。

今回説明する土地利子の特例は、その一つですね。

土地利子の特例とは?

土地利子の特例、と言われたり、土地等の負債利子の損益通算の特例と言われたりもします。

どのような決まりなのか、条文を確認してみましょう。

租税特別措置法第41条の4

個人の平成4年分以後の各年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合において、当該年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した金額のうちに不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地又は土地の上に存する権利(次項において「土地等」という。)を取得するために要した負債の利子の額があるときは、当該損失の金額のうち当該負債の利子の額に相当する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額は、所得税法第69条第1項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかつたものとみなす

ここに記載のある所得税法第69条第1項の規定とは、いわゆる損益通算の規定ですね。

要するに、

  1. 不動産所得で損失が生じている
  2. 土地を取得するために要した負債の利子が必要経費になっている

上記の2つの要件を満たすとき、この不動産の損失に含まれる負債利子のうち、一定の金額が損益通算できなくなる、ということですね。(損益通算上、なかったものとされてしまう)

ところで、損益通算とは何でしょうか。

例えば給与所得1,000万円の方が不動産を保有し、▲600万円の不動産所得の赤字になったとします。

その場合、課税される所得は、1,000万円−600万円=400万円になる、ということですね。

この黒字の所得と赤字の所得を相殺し、全体の所得を小さくする、という計算が「損益通算」です。

通常、給与の源泉徴収は給与1,000万円を前提に行われるので、実際の所得が400万円であったということであれば、源泉徴収が過大ということになりますから、源泉徴収所得税の還付が行われるということですね。

この損益通算に制限が加えられるということは、つまり不動産所得で赤字になっても、給与所得と不動産の赤字をそのまま相殺することはできず、一部相殺できなくなるということです。

これは事実上、経費に算入した支払利息の一部切り捨てられてしまうということと同義になります。

 

土地利子の特例の計算

では、この損益通算の対象外となる「土地等を取得するために要した借入金の利子の額」はどのように計算するのでしょうか。

租税特別措置法通達41の4-3

措置法令第26条の6第2項の規定の適用を受ける場合におけるその年分の同項の規定の適用に係る土地等を取得するために要した負債の利子の額は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することとなる同項の規定の適用に係る建物及び土地等を取得するために要した負債の利子の額にこれらの資産を取得するために要した負債の額のうちに同項の規定により当該土地等の取得の対価の額に充てられたものとされる負債の額の割合を乗じて計算した額となることに留意する。

なにやら書き方は難しいですが、計算式は以下の通りです。

$$土地建物を購入するための負債利子の額\times\frac{土地取得借入金の額}{土地建物取得借入金の額}$$

そして、この計算式で計算した金額が損益通算できない、ということですから、ざっくりと言ってしまうと、その利子の支払いは切り捨てられ、本来経費として得られたはずの節税効果がなくなる、ということですね。

実際に金利を支払っているにも関わらず、その支払いが一部とはいえ節税効果を喪失してしまうので、なかなかつらいところですね。

ただ、この規定は不動産所得が赤字になって、かつ土地を購入するための借入金の金利支払いがある場合は必ず発動されますから、逃れることはできません。

白色申告だろうが青色申告だろうが、事業的規模であろうがなかろうが、不動産所得が赤字になれば発動です。なかなか強烈な規定になっています。

 

土地と建物の借入金をどう分けるか

ちなみに、通常不動産投資では土地と建物を同時に購入するわけですが、その際の借入金は土地建物取得資金として一括して借りることが普通です。

わざわざ土地資金と建物資金に分けて借りることは通常ありません。

このように借入金が土地建物購入資金となっており内訳がわからない場合、土地を取得するための借入金部分をどのように認識するのかというと、以下のような規定があります。

租税特別措置法施行令第26条の6第2項

個人が不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地等を当該土地等の上に建築された建物(その附属設備を含む。)とともに取得した場合(これらの資産を一の契約により同一の者から譲り受けた場合に限る。)において、これらの資産を取得するために要した負債の額がこれらの資産ごとに区分されていないことその他の事情によりこれらの資産の別にその負債の額を区分することが困難であるときは、当該個人は、これらの資産を取得するために要した負債の額がまず当該建物の取得の対価の額に充てられ、次に当該土地等の取得の対価の額に充てられたものとして、法第四十一条の四第一項に規定する土地等を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の金額を計算することができる。

つまり、土地建物の借入金の合計金額から、建物の取得金額を控除した残りが、土地を購入するための借入金になる、ということですね。

これはあくまで「できる」規定であって必ずこうしなければならないというわけではありませんが、通常はこの取り扱いに従った方が有利です。

というのも、1億円(土地6千万円、建物4千万円)の物件を2千万頭金を入れて購入したとすると、借入金は8千万円のわけです。

例えば、取得金額の比で按分すると、土地借入金の額は、

$$8千万円\times\frac{6千万円}{1億円}=4千8百万円$$

となります。

一方で、この借入金8千万円から建物金額4千万円を引くと、土地借入金は4千万円ということになります。

土地借入金は小さい方が有利になるわけですが、特に頭金を入れた場合は、借入金から建物金額をマイナスした方が土地の借入金額は小さくなるので有利です。

この土地利子の特例の影響を緩和するために、頭金を入れることが有効であるという点はご理解いただけるでしょう。

 

土地利子の特例で注意すべき物件

この土地利子の特例は、不動産所得で赤字が生じる限り避けがたいので、そういうものだと受け入れるしかないのですが、とりわけこの規定の影響を受けやすいのは、

築古土地値木造物件を金利の高い銀行でフルローンで買う

ケースかなと思います。

金利の高い銀行、例えば3.5%などで資金調達すると、そもそも金利が高いので、発生する利子の総額自体が大きいのですね。

さらに、その物件が土地値物件だったりすると、建物の金額が小さくなりがちです。

上述の通り、土地の借入金は借入金の総額から建物金額を控除して計算するわけですから、借入金のほとんどが土地の借入金となるわけですね。

そうなるとどうなるでしょうか。

損益通算の対象外となる金利の額は、金利の総額に土地と建物の借入金の割合で計算しますので、借入金のほとんどが土地の借入金となってしまうと、金利のほとんどが損益通算の対象外となってしまします。

そう、そもそも金利の支払い自体が大きいにも関わらず、その金利のほとんどが損益通算の対象外となってしまうわけです。

こうなると、いくら不動産所得で経費を積んでもなんの意味もありません。赤字になったとたんに切り捨てられてしまうわけですからね。

ただでさえ小さい建物の金額を短期で償却して多少の赤字にしたとしても、土地利子の特例によりその赤字がすべて切捨て、というような事態も発生し得るのです。

 

土地利子の特例に対策はあるか

土地利子の特例は、不動産所得が赤字になると必ず発動されるので、赤字になるけど土地利子の特例の対象外になる、という抜本的な対策は不可能です。

ただ、土地利子の特例による影響を軽減することはできます。

軽減対策として考えられるのは、以下の3点ですね。

  1. 金利の低い銀行で借りる
  2. 土地建物金額について、建物が大きくなる物件を買う
  3. 頭金をしっかりと入れる

金利が低ければ、そもそも生じる利子自体が小さくなるので、結果土地利子の特例の対象も小さくなります。

また、買ってきた物件の土地建物の内訳につき、建物が大きい方が、土地借入金の金額が小さくなるので、やはりこちらも有利ですね。

金利や土地建物金額については、購入時に設定されたものをその後は基本的には修正できません。

購入後に、こんなはずではなかった、となってもどうしようもない部分ですから、注意しておきましょう。

また、頭金を入れると土地利子の特例の影響を軽減できることは前述の通りです。

しっかりと事前にシミュレーションを行っていく必要があるでしょう。

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