不動産投資で経費の計上は慎重にしましょう

よく税理士の本を読んでいると、修繕費などをいかに資産にではなく経費にするか
熱心に書いて有ることが多いです。

確かに、資産にするより経費にしたほうが、その年の納税上は有利です。

しかし、将来の売却まで見据えないと、通してみれば税負担は逆に多くなってしまう
可能性もあります。

若干細かすぎる論点な気もしますが、考えてみましょう。

経費にするか、資産にするか

不動産投資をしていく上で、会計処理方法が複数存在する項目があります。

それが、資産を購入した時です。

資産を購入した場合、その購入代金を一括してその年の費用にするのか、
それとも資産として減価償却するのか選択可能な場合があります。

例えば、物件の照明をLEDにした、インターネット設備を導入し設備代金を支払った、
外壁を一部塗装した、屋上をメンテナンスした、室内の和室を洋室に変更した、
長期入居の部屋を一新した・・・などなど

ある程度の費用がかかる項目はいくつかあります。

このような支出をした場合、通常は以下のように考えます。

1つ30万円以下の資産→青色申告なら費用計上可能(上限あり)
1つ20万円以下の資産→普通は上記規定で費用だが、上限を超えるなら3年で償却
1つ10万円以下の資産→費用
(実際はさらに複雑な規定がありますので、最終的には税理士に確認してください)

100万円で部屋のリノベーションをした場合、普通に見れば30万円以上なので
この100万円は全て資産になるとも思えますが、そうではありません。

このようになっていますので、例えば原状回復に100万円支払った場合、
その100万円を細かく細分化します。

結果、100万円の内訳として、30万円の資産2つ、10万円の資産4つの構成であれば、
100万円の全額を費用にすることができます。

そして、通常このように細分化して可能な限り費用に計上することが推奨されています。
なぜなら、そうした方がその年の税金を減らすことができるからです。

それはその通りですし、そのようなアドバイスを行う税理士は十分にその職責を
果たしていると思うのですが、実はもう一つ重要な検討ポイントがあります。

それは、「その物件をいつ売却しようと考えているのか」です。

経費にした時と、資産にしたときの税率差に注意

法人税の税率は、年間の利益額が800万円を超えるか超えないかで大きく異なります。
法人税の実効税率は以下のようになっています。
(本当はもうちょっと複雑ですが、簡便化して表示しています)

利益が800万円以下:23%
利益が800万円以上:33%

となっています。

ということは、利益が800万円を超えてしまうと、その超えた部分の
利益には、ぐっと重い税金が課されるのです。

ここで先程の資産か費用かの話に戻りましょう。

例えば、通常の家賃収入だけで利益が800万円を超えているような会社であれば、
その超えた利益を打ち消すために積極的に費用を計上すべきです。
そのため、資産か費用かを選択できる場合、可能な限り費用にすべきでしょう。

一方で、通常の家賃収入だけでは利益が800万円を超えないような会社はどうでしょうか?
もちろん、そのような会社でも費用にすれば、23%の節税にはなります。
しかし、このような法人も、ある時だけ利益が800万円を超える可能性があります。

それは、物件を売却したタイミングです。

物件を売却すると、それまでの家賃収入に加えて、売却益が発生する可能性があり、
そうすると利益が800万円を超えてしまう場合は往々にしてあります。
特に、減価償却の早い築古物件であればその可能性は非常に高いでしょう。

 

そのよなケースで、費用にできる支出を資産に計上していればどうなるでしょうか?
その場合、物件売却時の資産簿価が増加するので、その分の売却益が減少するのです。

であればどうなるか?

その売却益の減少分は、33%の税率で節税できることになります。

一方、その支出を資産とせずに支出時の費用とした場合、23%の節税にしかなりません。

逆に考えると、支出を資産とした場合、支出した年は支出額×23%税金が増えます。
しかし、売却時に支出額×33%の税金が減るということです。
結果として、その税率の差10%分の負担が軽減されるわけです。

10万円や20万円の支出でこのようなことをしても、たかが知れていますが、
居室のリノベーションや大規模修繕のような大きな支出を行った場合、
この税率差はなかなか無視できないものになります。

 

このように、ある程度売却時期を予測している場合、費用にできる支出もあえて
資産とすることで、通算して見た場合の納税負担を減少させることも可能なのです。

長期的な将来予測が必要です

一方で、このようなことをするには、長期的なシミュレーションが欠かせません。

というのも、売却時に損失が出るようであれば、資産に計上した意味がありません。
また、その支出分の減価償却が終わった後に売却するのであれば、これもまた
資産に計上した意味がなくなります。

保有物件の事業計画を考え、シミュレーションを作成することは、税金対策を表面的
なものにしないためにも重要なのです。

© 2024 和田晃輔税理士事務所