あなたの副業 事業所得?雑所得?

先日、所得税法基本通達の改正案が公表されました。

見た方も多いかもしれませんが、「収入金額300万円以下の場合には、反証のないかぎり雑所得として取り扱う」というような内容でした。

現在パブリックコメント募集中なので、このままの内容で改正されるかどうかはわかりません。

これまで事業所得として申告していたのに、雑所得になるのか!?と話題になった一方、事業所得か雑所得かというのは非常に難しいというのも現実です。

今回は、この通達の改正による影響を検討してみましょう。

通達改正案の内容

所得税法基本通達35-2が、以下のように変わることになりそうです。

所得税法基本通達35-2(案)(業務に係る雑所得の例示)

次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。

⑴~⑹ 省 略
⑺ 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得
⑻ 省 略
(注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。

最もインパクトが大きそうなのは、(注)の部分ですね。

とりわけ、事業所得が主たる所得でなく、かつ年間収入300万円以下の場合は、雑所得として取り扱うという金額基準が明示されたのは、個人的にも結構驚きました。

ただ、この通達は現行の法令解釈に変更を加えるものではないという印象です。

ですので、副業で年間収入300万円以下だと自動的に雑所得になるわけではありませんし、逆に副業の年間収入が300万円を超えたからといって自動的に事業所得になるわけでもありません。

前段に以下のような記載があります。

「事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのである」

これの記載が結局は全てですね。

年間収入300万円以下の副業は社会通念上事業と言えないケースが多い一方、事業だと立証できるのであれば当然それは事業所得なわけです。

事業所得と雑所得の違い

なぜ、事業所得か雑所得かの判断が重要な意味を持つのでしょうか。

これは、事業所得にはいくつかの税制上のメリットがあるからですね。

  • 事業所得で赤字が生じた場合、給与所得や不動産所得といった他の所得の黒字と相殺することができる(損益通算)
  • 事業所得でかつ青色申告の場合、青色申告特別控除や青色事業専従者給与などいくつかの優遇措置がある

主としては以上のようなところでしょうか。

これは、裏を返すと、雑所得は赤字になっても切り捨てだし、青色申告特別控除などの税務上の優遇措置も一切受けられないのだということです。

特に問題になりやすいのは、①ですね。

よくSNSで「サラリーマンが開業届を出して節税!」などということを言う人を見たことがある方もいらっしゃるでしょう。

これは、つまり他に主たる収入のある人が、個人として事業を開業したことにして、適当に売り上げを計上し、一方で自宅家賃や自動車、個人的飲み食いなどを経費に何らかの言い分をつけて(あるいはつけずに)ぶち込み、赤字に仕立て上げ、この赤字と給与を相殺して源泉徴収された所得税の還付を狙う。

というようなことですね。

ただ、これが事業所得として申告できず、雑所得になるのであれば、そもそもいくら赤字を作り出したところで切り捨てられてしまうので、さして意味がありません。

一方で、事業所得になるのであれば、給与所得と相殺できるわけですから、赤字を作出する節税メリットが生じるというわけですね。

この点、事業所得を赤字にすることによる節税というのは実は昔から存在し、多くの裁判裁決が存在します。

では、事業所得と雑所得は本来どのように区分すべきものなのでしょうか。

事業所得と雑所得はどう区分するのか?

まず大前提として理解していただきたいのは、「私が事業だと認識しているから事業所得なのだ」という主張は基本的に通らないということです。

また、開業届を税務署に提出しているから事業所得なのだ、という人がいますが、開業届の提出と事業所得か雑所得の判断は何の関係もありません。

さらに言うと、今まで事業所得で申告していたけど税務署から何も言われていない、という点も関係ありません。申告書が受け付けられたといことは、その申告書が正しいということを意味しません。将来税務調査で否認される可能性は十分にあります。

所得税法では、個人の収入を、その収入の形態によって給与所得、不動産所得、配当所得、譲渡所得などに区分し、この区分毎に課税方法が変わるわけですが、そもそも、事業所得と雑所得とは、どのような所得を言うのでしょうか。

所得税法第27条

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。

まず事業所得とは、「事業で政令で定めるもの」から生じる所得だということです。

次に、政令を見てみましょう。

所得税法施行令第63条 

法第二十七条第一項(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。

一 農業
二 林業及び狩猟業
三 漁業及び水産養殖業
四 鉱業(土石採取業を含む。)
五 建設業
六 製造業
七 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
八 金融業及び保険業
九 不動産業
十 運輸通信業(倉庫業を含む。)
十一 医療保健業、著述業その他のサービス業
十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業

うーん、なんだかよくわかりませんね。
そう、実際のところよくわからないのです。

結局のところ、事業所得とは「対価を得て継続的に行なう事業」から生じる所得となってしまい、事業所得とはつまり事業から生じる所得なのだという自己言及的なものになってしまいます。

実は所得税法には「事業」とは何かという定義が無いので、ここに大きな混乱が生じる原因があります。

次に雑所得を見てみましょう。

所得税法第35条 

雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。

雑所得とは、雑所得とは何かという定義がされているわけではなく、他のどの所得にも該当しないならそれは雑所得ですよ、ということだけですね。

ですので、事業所得と雑所得の判定上、事業所得とは何か、さらに言うと事業所得における事業とは何かという点が重要になるわけです。

しかしながら、前述の通り、所得税法の事業所得の定義は「事業から生じた所得」でしかなく、「事業」とは何かについて所得税法で示されていないので、事業所得か雑所得か一概に判断することはできないのです。

注意が必要なのが、消費税法基本通達に下記のような記載があることです。

消費税法基本通達5-1-1 事業としての意義

法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう。

よく、この内容をもとに、「継続・反復・独立」が事業所得の基準だという方もいますが、これは消費税法上の事業の定義であって、所得税法とは関係がなく、所得税法上の事業所得と雑所得の区分判断に使えません。

実際、消費税法はその付加価値税としての性質上、所得税法より事業の範囲を広く定義していると考えられますので、この基準で事業所得だと判断すると実は雑所得であるという危険性がありますから注意しましょう。(この点は税理士でも勘違いしている人がいます)

裏を返すと、所得税法上は雑所得であっても消費税の納税義務が発生する可能性があるということです。(金地金の売買とかはそうですよね)

では、結局どのように判断すれば良いのかというと、過去の判例を見てみるしかありません。

事業所得と雑所得の区分は明確な基準が無く、とりわけ争いの多い分野ですから、多くの参考になる判例があります。

事業所得と雑所得の区分の判例

事業所得と雑所得の区分が争われた事例をいくつか見てみましょう。

大阪地方裁判所 平成23年12月16日判決

これは、勤務医として給与収入を得ていた医師が服飾レンタル業を行い、これを事業所得として申告したところ、否認された事例です。
本業の給与所得と、赤字の事業所得を損益通算していた事例ですね。

かなり長くなるのですが、非常に参考になるので引用します。

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうが、具体的に特定の経済的活動により生じた所得がこれに該当するといえるかは、当該経済的活動の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計画による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的活動をすることにより相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきである。

(中略)

前記認定事実によれば、少なくとも平成13年から平成18年までの間、原告が継続的に本件服飾レンタルを行っていたことが認められる。もっとも、この間のいずれの年においても収入金額を大幅に上回る仕入れ(服飾品の購入)が行われており、また、レンタル商品の減価償却費は収入金額を大幅に上回っており、収益が全く生じていない。本件服飾レンタルのレンタル商品は、原告のサイズに合うものしかなく、顧客は原告とサイズがほぼ同じ長年の固定客10人程度に限定されており、上記のように全く利益が出ていないにもかかわらず、宣伝広告等は一切行われず、顧客拡大による収益拡大の努力が全く行われていない。また、営利目的の事業を行う場合には、業績把握のために通常作成されるべき収支に係る帳簿類も作成せず、その一方で、原告は、レンタル商品として、毎年収入を大幅に上回る金額の服飾品を購入し続けており、さらに、そもそも原告が本件服飾レンタルを開始した動機は、服飾をレンタルすれば、多くの服飾品を購入することができ、自分も気が向いたら着ることができるということにあり、そもそも利益を得ることは目的としていないことがうかがわれる。これらの事情に鑑みると、本件服飾レンタルにより経済的に安定した収入を得る見込みはなく、本件服飾レンタルに営利性があるとは認め難い。また、原告は、医師業を本業として、相当程度安定した収入を得ており、当該収入がその総所得の大部分を占めており、本件服飾レンタルの資金についても、特に借入れ等を行った事実も見当たらないことからすると、当該収入から捻出されたものであることがうかがわれる。そして、本件服飾レンタルは、多忙な医師業の合間の僅かな時間に、前記のとおり10人程度の固定客を相手に行っているものであること、商品の授受等は喫茶店などで個別に行われており、特別な店舗や事務所等が設置されているわけではなく、レンタル商品を保管している原告所有のマンションがあるものの、当該マンションは居住用であり、本件服飾レンタルの表示等も特になかったこと、レンタル商品を収納するのに必要なクローゼットやタンス等以外は、特段営業の用に供する物的設備もないこと、基本的には原告が1人で行っているため、従業員等の特段の人的設備もないこと、さらに、顧客との間で領収書や請求書も発行しておらず、収支に係る帳簿類も作成せず、特段の宣伝広告も行っていないことなどに鑑みれば、本件服飾レンタルは、原告が医師業により安定した収入を得る傍らに、わずかな時間と労力により、特段の人的設備や物的設備を備えることなく行われたものであり、事業としての社会的客観性を有しているとは認め難く、また、自己の危険と計画による企画遂行性があるとも認められないむしろ、前記認定事実を総合考慮すれば、自己の服飾費を減価償却費として損金算入することにより、節税効果を得ることを目的として、事業の外観を備えるために本件服飾レンタルが行われていたとみるのが自然である。

以上からすれば、本件服飾レンタルが、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということはできず、本件服飾レンタルの事業性は認められないというべきである。

ご理解いただきたいのは、ここまで細かく事実認定が行われて事業所得か否かは判断されるということです。

・営利性、有償性、継続性、反復性
・自己の危険と計画による企画遂行性の有無
・精神的、肉体的労力の程度
・人的物的設備の有無
・資金調達の状況
・事業者の経歴、社会的地位、生活状況や事業により利益を得られる見込み

という点を総合判断するのだ、ということになります。

儲かっているのか、売上はどの程度の規模なのか、その状態が継続しているのか、自身でビジネスプランを立て、失敗すれば損失を被るリスクを負っているのか、どの程度の精神的・肉体的労力を必要とするのか、人を雇っているのか、事務所・倉庫はあるのか、事業資金はどのように調達したのか、事業者は専業なのか兼業なのか。。。

などなどを総合して、社会的に客観性をもって事業と言えるのかどうか、という点が判定されています。

この例では、事業としての社会的客観性を有していないと判示されています。

この客観的に認められるか、という点が重要ですね。

納税者自身の主張ではなく、ある種常識的判断として事業と言えるか否かが問われるわけです。

言い換えると、社会通念上事業と言えるかどうか、ということですね。

横浜地方裁判所 平成28年2月3日判決

猟銃の製造販売・鋼材の鍛錬を行う鍛冶を行っているとして事業所得で赤字申告をし、給与所得と相殺していた人が否認された事例です。

なお、納税者は、事業所の所在地を自宅とし、製造及び販売する猟銃等の種類を猟銃及び空気銃とする、猟銃等の製造事業及び販売事業の許可を受けています。

(1) 所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解され

(2) 原告は、平成23年ないし平成25年において、本件製造等業務による収入を得ておらず、本件鍛冶業務による上記各年の収入も、順に0円、1万4000円、3万5240円にとどまっている一方、原告は、上記各年はもちろん、遅くとも平成19年以降は、本件各業務による必要経費が生じたとして、毎年、確定申告において事業所得につき400万円以上の損失を計上している状況にある。しかも、原告は、本件製造等業務については、火縄銃の製造技術を学んではいるが、平成26年8月時点ですら未だ火縄銃を製造する技術を有しておらず、現実に火縄銃の製造及び販売を行ったことがないというのであり、また、本件鍛冶業務についても、今は修行中で技術が未熟であるとして宣伝広告を行っておらず、特定の取引先はなく、作業内容を掲載する自らが開設するブログを通じて依頼があれば受け付けているにとどまり、その収入額も上記のように極めて少額にとどまっている。このような事情に照らせば、本件各業務は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有するものとは到底認められないというべきである。

しかも、原告は、平成23年から平成25年までの間、B基地において週40時間消防業務に従事してA事務所から年800万円以上という相当額の安定した収入を得ており、当該収入が原告が確定申告に計上した収入金額のほとんどを占め、本件各業務は、B基地の仕事のないときに行っているものにすぎないのであって、これらの事情に照らせば、本件各業務は、事業としての社会的地位が客観的に認められるものであるということもできない。

先程の判例に続き、「他の安定した収入」に言及されている点は注意すべきです。

他に安定した収入のある人が空いた時間で行っている事業、要するに副業やサイドビジネスは、事業所得と判定されるかどうかは慎重に判断しなければなりません。

横浜地方裁判所 平成11年7月28日判決

これは、パイロットとして勤務していた人が、絵画の自費出版による収入を事業所得として赤字申告し、給与所得と損益通算していた事例です。

事業所得とは、広く「事業」から生ずる所得を意味し、事業とは一応「営利を目的とする経済的行為であって、社会通念に照らして事業と見られるもの」ということができるが、具体的な所得が事業所得となるかどうかは、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無のほか自己の危険と計算による企画遂行性の有無、その行為に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、資金の調達方法、その経済的行為の目的、その行為をすることにより相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性の有無、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの客観的な諸要素を総合勘案して社会通念に照らして客観的に判断すべきものである。

原告はパイロットとしてA社に勤務し、絵画はその余暇に描いているものであること、平成7年から9年まで、A社から年間2875万6412円ないし2923万7392円の給与収入を得ている一方、画家及び絵画販売による収入は年間8万円ないし10万7000円と少額であって、絵画制作資金の調達や原告及びその家族の生計はエアシステム社からの給与収入によって立てられていること、また、画家及び絵画販売による収入が右のとおり少額であるのに、損失は年間134万3096円ないし282万0484円にものぼること(画集の原価が1冊4000円であるのに、1冊1000円で原価割れで販売するなどしている。)、収入・支出に係る帳簿を付けておらず、収入についての領収書の発行もせず、経費についての領収書等もほとんど保存していないことなどに鑑みると、前記事業所得に当たるかどうかの判断基準に照らし、伊藤上席らが原告の画家及び絵画販売に係る所得が事業所得ではなく雑所得に当たるものと判断したことには合理性がある。

これも、今まで見てきた内容からすると、事業所得として認められるのは厳しいと言わざるを得ませんね。

東京地方裁判所 平成3年3月26日判決

これは、法人の代表者である個人が、個人として金銭貸付業をおこなっていたところ、事業所得ではなく雑所得と判断された事例です。ちなみに、この人は貸金業の登録をしていましたが、それでも事業所得ではないと判断されています。

これも、給与所得と事業所得の赤字を相殺し、損益通算を受けていた事例ですね。

金銭の貸付行為が所得税法上の事業に該当するか否かは、被告も主張するとおり、社会通念に照らして、その営利性、継続性及び独立性の有無によつて判断すべきものと解するのが相当であり、具体的には、利息の収受の有無及びその多寡、貸付の口数、貸付の相手方との関係、貸付の頻度、金額の大小、担保権設定の有無、人的及び物的設備の有無、規模、貸付宣伝広告の状況等諸般の事情を総合的に勘案して、右の点を判断すべきものと考えられる。

(中略)

右のとおり、原告の貸付の大半が自らがいわばその経営者の立場にある宮川3社に対する運転資金又は事業資金の融資であり、その他の貸付は友人又は知人の4名に対するものだけであること、これらの貸付の多くについて、利息を定期的に収受しておらず、事前に債権の回収確保のための十分な措置を講ずることもせず、その結果、宮川3社以外の貸付先4名のうち3名については貸付金の相当額を最終的に貸倒れとして処理せざるを得ないという状態になつていること、更にまた、その事務所についてもそれが貸金業のための事業所として利用されていたとまでいえるような外形的事実が存在していなかつたことなどからすれば、前記のとおり原告が正規の貸金業の登録を行つていたこと等を考慮に入れても、なお原告が右金銭の貸付行為を事業として行つていたものと評価することは困難なものというべきである。

こちらについても、貸金業を行っていると社会的客観性をもって言うことができないということですね。

やはり、他に安定した収入のある個人が、事業を行ってそれを事業所得として申告し、かつその事業所得が赤字である場合、なぜ事業所得であるのかという点についてしっかりと説明できるようにしておかなければならないでしょう。

その説明の際にキーとなる部分については、これまでの判例を見ていただければ概ねご理解いただけるのではないでしょうか。

東京地方裁判所 平成21年7月31日判決

実は、副業である収入が事業所得と認められた事例もあります。

大学教師・評論家である人が、インターネットの公式サイトにて著書の紹介や販売、講演会のビデオの販売、会員からの会費受け取りといったウェブサイト収入を得ていたものです。

主たる争点は所得の帰属なのですが、その他にもこの収入が事業所得なのか雑所得なのかが争われています。
結果として、事業所得として認められています。

本件収入のうち本件サイト収入について検討するに、原告は、前記1(2)のとおり、本件サイトを運営して、原告の著書の紹介及び販売並びに原告が行った講演会の模様を録画したビデオの販売を行うとともに、本件有料ページを設け、広く一般から購読会員を募り、原告が選別した特別な情報等を有料で提供していたのであり、本件サイト収入の金額も、原告の給与収入の額にほぼ匹敵するか(平成13年分)それを上回る(同14年分及び同15年分)ほどになっていたものである。
また、原告は、前記1(1)イ(イ)のとおり、D金融公庫から550万円の融資を受けるに当たり、開業計画書の事業内容として「インターネットによる言論・情報提供業」を掲げていたのみならず、乙6の2によれば、開業後の利益金額の見通しを立てていたことが認められ、さらに、甲5の45によれば、原告は、「営利目的でやっているといっても、ノルマとか厳しいわけではないんだからさ。」と、本件サイトの運営が営利目的であることを肯定する趣旨の発言をしていたことが認められる。以上の事実を総合的に考慮すれば、本件サイト収入による所得は、社会通念上事業所得に該当するものと認めるのが相当である。

(中略)

原告はA大学に勤務する教師であり、給与所得を有する者であるが、前記(1)で示した事業所得の意義からすると、ある所得が事業所得に該当するか否かの判断に当たっては、その者の本来の業務又は職業として行われる場合であると副業的なものとして行われる場合であるとを問わないと解するのが相当であるから、原告が給与所得者であるという事実は、本件収入による所得が事業所得に該当するとの前記認定を左右するものではない。

・給与収入に匹敵する、あるいはそれを上回る収入をサイト運営から得ていた
・金融機関からサイト運営資金の融資を受けており、その際に事業目的を「インターネットによる言論・情報提供業」としていた
・事業計画を作成し将来の利益の見通しも立てていた
・利益目的でのサイトである旨の発言をサイト運営会議で行っており、会議において利益を上げるためのかなり具体的な指示を行っている

というような点から、このサイト収入は雑所得ではなく、事業所得であると認定しています。

事業所得と雑所得の区分が正面から争われた事例ではないので、先例性がどこまであるかわかりませんが、参考にはなると思います。

また、事業所得であるか雑所得であるかの判定では、本来の職業であるか副業的なものであるかは問わないとされています。

これも事業所得の判定は社会通念上事業かどうかによって判断するのであって、単に本業か副業かによって判断するのではないということです。

通達改正の影響を考える

これらを踏まえ、今回の通達改正による影響を考えてみましょう。

先に示した通り、

・事業所得と雑所得の判定は、社会通念上事業と称する程度で行っているかで判断
・事業所得が主たる所得でなく、かつ収入金額300万円を超えない場合には、「特に反証が無い限り」雑所得として取り扱う

ということなわけですが、この「特に反証が無い限り」というのは、社会通念上事業と言えるかどうかについての反証ということになります。

今までご紹介した様々な裁判についても、社会通念上事業と言えるかどうかが争点になっていたのであって、この点社会通念上事業と言えるのであれば、当然事業所得なのです。

そういう意味で、社会通念上事業として認められる実態があるのであれば、副業で収入金額が300万円以下であっても当然事業所得なわけです。

そのような点を考えると、今までと違った思考回路を持つというより、従来どおり事業所得として申告するのであれば、営む事業が社会通念上事業と言えるのか、事業としての社会的客観性を持つのか、という点を説明できるようにしておくことが重要でしょう。

この金額基準が明示されたということは、納税者の側に説明責任が生じたということですね。

今回の通達により、事業所得が主たる所得でなく、かつ「特に反証が無い限り」年間収入300万円以下は雑所得とされるわけですから、副業で年間収入300万円以下であるにも関わらず事業所得として申告する場合、なぜ事業所得になるのか、という点を明らかに説明できるようにしておかなければならないでしょう。

年間の収入金額が300万円程度で、かつ他に主たる収入がある場合、その事業が社会通念に照らして事業と言えるか、という点は正直むずかしいケースが多い思います。

やはり売上金額が大きくなく、かつ他に安定した収入があるような副業の場合、事業所得として認められにくいのは今まで見てきた判例が示す通りです。

間違いなく副業を事業所得として申告するのハードルが上がったということは言えると思いますので、それでもなお事業所得だと申告する場合は、しっかりと理論武装が必要になってくるでしょう。

不動産オーナーには関係が無い話

では、例えば戸建て1戸や区分マンション1戸を賃貸していて、年間収入300万円もない、というケースはどうなるのでしょうか。

これは、雑所得になることはありえず、不動産所得になります。

ですので、今回の通達の改正は関係無いというところですね。

不動産所得とは、所得税法では以下のように定めれらています。

所得税法第26条

不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう

個々にある通り、不動産の貸付による収入は、必ず不動産所得になるわけですね。

不動産所得に該当する以上、雑所得には該当しようがないのです。

前述の通り、雑所得とは他の所得の何にも該当しない所得ですから、不動産所得に該当する時点で雑所得になることは定義上あり得ないというわけですね。

ですから、以下に規模の小さい不動産オーナーであっても、不動産所得であることは間違いが無いということになります。

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