土地建物比率で不動産鑑定評価が認められた事例

不動産を購入した場合に、土地と建物の金額をいくらにするのか、というのは非常に重要な論点ですね。

以下の記事も参考にしてもらえればと思います。

シリーズ:土地建物割合を考える
第1回:不動産の土地建物の金額を考えていますか?
第2回:はじめに売買契約書ありき~土地建物の金額の決め方①
第3回:売買契約書が税務署に否認される?~土地建物の金額の決め方②
第4回:売買契約書に土地建物をまとめて記載した場合~土地建物の金額の決め方③

通常、不動産投資では土地と建物を同時に購入してくる一括取得になるわけです。

売買契約書に土地建物の金額が記載してあったり、消費税額が記載されていたりする場合は、特に議論の余地なく売買契約書記載の金額が採用されます。

もちろん、売買契約書記載金額の否認事例もあるので、契約書に書けば無条件に認められるというわけではありません。
売買契約書の否認事例についてはこちらの記事もご参照ください。

しかしながら、売買契約書に土地建物金額や消費税額の記載がなく、土地建物合計でいくら、という記載しかないケースもよくあり、そういった場合に、売買金額のうち土地がいくらで、建物がいくらなのか、という按分をしなければなりません。

こういうケースでは、通常土地と建物の固定資産税評価額で按分するということが通常であり、かつそれが判決でも支持されるケースが多かったのですが、近年この固定資産税評価額による按分ではなく、不動産鑑定評価額による按分が認められるケースが出てきました。

どのようなケースで不動産鑑定評価が認められているのか、実例で見ていきたいと思います。

最初は鑑定評価が認められていなかった

まだ地裁の判決であり、控訴されているので結論は変わるかもしれませんが、以下のような事件です。

・飲食店を経営する法人が競売によりテナントビルを25億円で落札
競売なので当然ですが、落札価格に対する土地建物の内訳が明示されていません。
・土地を路線価価格、建物を類似物件を参考にした再調達価格により土地建物の価格を算出し、この価格比により落札金額を土地13億円弱、建物12億円弱に按分して申告
・税務署より固定資産税評価額按分の土地22億円、建物3億円として更正処分を受ける
・国税不服審判所にて納税者は不動産鑑定評価を提出したが採用されず固定資産税評価額按分が採用

今回の建物はテナントビルですから、購入は消費税の仕入れ税額控除の対象になり、消費税に影響ますし、減価償却により法人税の金額にも影響しますから、建物が12億円か3億円かというのは非常に大きな納税の差を生みます。ここまで大きな差があると裁判になって当然ではあります。

国税不服審判所での審査に際し、納税者は不動産鑑定評価書を提出しているのですが、これが不採用となっています。

なぜ納税者側が取得した鑑定評価書が採用できないのか、という点については、以下のように税務署は主張しています。

平成27年6月1日 国税不服審判所裁決

代金総額を土地及び建物の価額比であん分する場合において、価額比の基礎となる土地及び建物の価額については、①土地及び建物の販売価額が区分されている類似物件の売買実例価額、②鑑定評価による価額、③土地及び建物の相続税評価額、④土地及び建物の固定資産税評価額などを用いることが考えられるところ、①及び②による方法は、その算出に多大な費用を要するものであり、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減の観点から合理的とはいえず・・・(以下略)

請求人が主張する本件K評価書における鑑定評価額を基に算出する方法は、上記のとおり、その算出に多大な費用を要するものであり、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減の観点から合理的とはいえず、上記ハのとおり、固定資産税評価額を用いる方が鑑定評価による価額を用いる方法に比べ合理的な算出方法であると認められる。

要するに、税務署としては、鑑定評価による按分がダメとは言えないものの、鑑定をとるとコストがかかるし、調査のたびに鑑定をとるのも面倒だからダメだということですね。

なんとも身勝手な主張というほかありませんが、この主張は今まで認められてきたのです。

もちろん、鑑定評価がとられていないのであれば、固定資産税評価額按分を採用するのが合理的と言えるでしょうが、鑑定評価がとられている以上、納税者間の公平とか徴税費用などといって鑑定評価を採用しないのは非合理というほかありません。

この際、国税不服審判所は以下のように裁決しています。

平成27年6月1日 国税不服審判所裁決

確かに、鑑定評価による価額を用いたあん分法も土地と建物等の取得価額を区分する方法として、一応の合理性が認められる方法である。しかしながら、本件K評価書における評価額は、次のとおり、必ずしも合理性のある算出価額とはなっていないものと認められる

(中略)

固定資産税評価額は、総務大臣の告示による固定資産評価基準に基づき、土地の場合は路線価と同様に地価公示価格や売買実例等を基に評価され、家屋の場合は再建築価額に基づいて評価されているから、土地及び家屋の時価を反映していると考えられる上、土地と家屋の価額の算出機関及び算出時期が同一であるから、土地及び家屋の固定資産税評価額はいずれも同一時期の時価を反映しているものと考えられ、合理的であると認められる。

さすがに裁決ではコストがかかって面倒だから鑑定評価が採用できないという話にはなっていませんが、要するに、鑑定評価に合理的でない面があるから、固定資産税評価額の方が合理的だということですね。

こちらも、固定資産税評価額を採用するという結論から逆算してロジックを構築しているようにしか見えません。

というのも、鑑定評価額の合理性を云々するなら、固定資産税評価額の合理性も併せて検討し、より合理性の高い方を採用するというプロセスが必要なはずです。

鑑定評価の非合理を指摘したところで、固定資産税評価額が合理的になるというわけではないはずです。

にもかかわらず、鑑定評価の非合理を指摘し、固定資産税評価額の合理性の検討をすることなくそちらの方が合理的だという判断は、最初から固定資産税評価額を採用しようという予断が無いとできないことです。

ロジックにすらなっていないですね。

ただ、今まではこの課税側の身勝手な主張がまかり通っていたというところです。

裁判所は鑑定評価の使用を認めた

これを受けて納税者が提訴したわけですが、東京地裁は独自に不動産鑑定評価を取得した上で、以下のように判示しています。長いのですが、とても重要な部分なので引用します。

令和2年9月1日 東京地裁判決

固定資産評価基準の定める評価方法が、適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであるとしても、この評価方法に従って決定された価格は、特段の事情のない限り当該資産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないことが推認されるにとどまるものというべきである。また、地方税法が、固定資産税の課税標準に係る固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示に係る評価基準に委ねている(388条1項)のは、固定資産税の賦課期日における土地課税台帳等の登録価格が同期日における当該資産の客観的な交換価値を上回らないようにすることのみならず、全国一律の統一的な評価基準による評価によって、各市町村全体の評価の均衡を図り、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消することをも目的とするものであり、かかる目的の下に行われる評価は、適正な鑑定の評価の過程において考慮の対象とされるような当該資産の個別的な事情については、ある程度捨象されることも前提としているものということができる。

これらに照らすと、本件のように、法人税に係る減価償却費の額及び消費税の課税仕入れに係る支払対価の額を計算するために、一括して取得された土地及び建物等の取得価額を按分する方法として、当該資産の客観的な交換価値を上回らない価額と推認される固定資産税評価額による価額比を用いることは、一般的には、その合理性を肯定し得ないものではないが、当該資産の個別事情を考慮した適正な鑑定が行われ、その結果、固定資産税評価額と異なる評価がされた場合には、もはや、固定資産税評価額による価額比を用いて按分する合理性を肯定する根拠は失われ、適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのが合理的となるというべきである。

要するに、固定資産税評価額は土地建物の時価を上回っていないということは言えるが、それ以上の存在ではなく、かつ不動産の評価上本来考慮されるべき個別事情を無視したものだから、こういった個別事情を考慮した適切な鑑定評価が取得された場合は、固定資産税評価額を使用する合理性が無くなる。

固定資産税評価より合理的といえる鑑定評価があるのだから、それを採用することの方が合理的だということですね。

非常に納得のできる判決です。

もちろん、こちらについても鑑定評価の合理性についての検討は行われています。その上で、合理的な鑑定評価書を取得しているのであれば、そちらが認められるということですね。

今後の鑑定評価の使い方

それでは、今後鑑定評価をどのように活用できるかを考えてみましょう。

今回は地裁判決ながら納税者勝訴の事例をご紹介しましたが、実際のところ、不動産鑑定評価はなんでも可能な魔法の杖ではありません。

鑑定評価をとっても、土地建物金額は固定資産税評価按分とさして変わらない、というケースも実際多いです。

ですので、鑑定評価にある程度のコストがかかることを考えても、実際に鑑定評価を行うかどうか、というのはよく検討する必要があるでしょう。

普段から付き合いのある不動産鑑定士などに、鑑定評価を取ったとして土地建物金額がどのくらいになりそうか、というような目途感を事前に確認できれば良いですね。

さらに、鑑定評価に基づいて意思決定する場合は、その鑑定評価が合理的である必要があります。

今回ご紹介した事例でも、結局納税者側が取得した鑑定評価は採用されず、裁判所が取り直した鑑定評価が採用されるという形になっています。

不動産鑑定士に、建物をできるだけ大きくしてくれ、というような要望をする方もいらっしゃいますが、その要望を達成するために鑑定評価の内容が後日の争いに耐えられないものになっては意味がありませんから注意が必要でしょう。

無理のある建物金額を実現するため、鑑定評価のロジックに無理があるようなものになるとあまりせっかく鑑定評価をとっても役に立たないかもしれません。

税務署は鑑定評価の合理性をチェックするマニュアルを持っていますので、鑑定評価さえとれば安心だ、というわけではありません。鑑定評価があっても否認されることはありえますから、適切なものを用意しておく必要があります。

また、やはりある程度規模感のある物件である、という点もポイントになりそうです。今回の事例でも25億円の物件なわけですが、不動産鑑定評価にはコストと時間がかかるため、そう毎度とるわけにもいきません。

ですから、ある程度規模感も大きく、土地建物の割合が大きな影響を与えそうなケースで取得する、というのが基本的な考え方でしょう。

また、そういった物件を取得する際に、不動産鑑定評価をとるべきなのかという点については、決算前に税理士と打ち合わせしておきたいですね。

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