格安不動産購入で贈与税発生のナゼ?

最近は格安で不動産を購入する話を聞くことが多いですね。

100万円など格安で戸建てを購入してきて、リフォームをして貸し出すと利回りの高い物件となる、というような点が人気のようです。

また、現状不動産投資の融資が非常に渋い状況ですから、投資額が少なくて済むという点でも魅力がありそうです。

極端な例だと、戸建てを1円とか10円とかで購入する、みたいな話もあるようですね。

実は、こういった格安での購入をした場合に、買い手側に贈与税課税のリスクがある点はご存じでしょうか。

売買契約を締結して購入しているのに、贈与税とはどういうことだ!?

という疑問は当然ですね。

今回はその点について解説しようと思います。

 

贈与って何?

贈与とは、民法で以下のように規定されています。

民法第549条

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる。

 

つまり、贈与は財産を無償で与える側の「あげます」という意思と、贈与を受ける側が無償で「もらいます」という意思の表示があって成立するということです。

相続の現場では良く名義預金というものが問題になります。

例えば、親が子供名義の預金口座を作って、そこにお金を入れて、それをもって親から子への贈与が完成したと考えていたとしましょう。

実は、その子供名義の預金は、親の相続財産になってしまいます。

というのも、子供はその預金を「もらいます」という意思表示をしていないわけですから、贈与が成立していないと判断されてしまいます。

贈与が有効に成立していない以上、口座の名義が違うだけで、親の財産だということですね。

では、不動産を格安で購入する行為はどうでしょうか?

この場合、売買契約書を締結して売買を行っているわけです。

別に無償で財産をもらったわけではありません。

売主が無償であげたと思っているわけでも、買主が無償でもらったと思っているわけでもありません。

ですから、これは民法上の贈与では無いわけです。

それでは、なぜ贈与税が発生する可能性があるのでしょうか。

 

税法におけるみなし贈与の存在

贈与税が課せられる対象とは、そもそも何なのでしょうか。

相続税法第1条の4

次の各号のいずれかに掲げる者は、この法律により、贈与税を納める義務がある。

一 贈与により財産を取得した次に掲げる者であつて、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの

(以降省略)

 

財産を贈与により取得した者には、贈与税を納税する義務があるわけです。

基本的には、贈与を受けた人に贈与税を課すと言っているわけですから、民法条の贈与があったら、贈与が受けた人が贈与税を払うということですね。

ただ、実はこの贈与は、民法上だけの贈与ではないのです。

以下のような規定があります。

相続税法第7条

著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす

 

まさにこの条文が問題になるわけですね。

著しく低い対価で財産の譲渡を受けた場合、その譲渡金額と時価の差額を、譲渡した人から贈与によって取得したものとみなされてしまう、というわけです。

この「みなす」ということが重要なのです。

贈与があった、ということではなく、特定の取引があった場合は、贈与があったとみなすわけですから、民法上の贈与でなかったとしても、贈与として課税しますよ。ということです。

ですから、売買契約によって取得したのだから、贈与ではない!買い手はもらったという意思も無いし、売り手もあげた訳では無い!贈与は法的に成立していない!と言っても反論にはならないわけですね。

税務署としては、贈与だと言っているのではなく、税法上贈与とみなしますよ、と言っているわけですからね。

贈与の意思がなかったとしても、贈与税を発生させるということです。

ただ、あくまで贈与は個人間取引が前提ですから、売主買主が両方とも個人である場合しかみなし贈与は発動しません。

 

第三者間売買でも発動される可能性

この規定は、親族間取引では発動されている事例が多いです。

やはり親族間であれば、ある程度恣意的に売買金額を決めることができますからね。

では、第3者間での売買ならどうでしょうか?

というのも、利害関係の無い第三者間取引であれば、その取引金額そのものが時価なのであって、著しく低いも何も無い、と思われるからです。

実は、第三者間の売買でも発動される可能性があります。

というか、発動された事例があります。

以下のような事例です。

・売主と買主は顔見知り程度の知り合い
・買主は土地家屋調査士の資格を持つ市会議員
・売主が買主に土地の売却を依頼
・買主は土地を建売業者2社に紹介したが売れなかった。それ以上の売買活動はしていない
・親族の入院代金等でお金が必要な売主は、買主に買い取りを依頼
・売買金額は1,500万円
・売買金額の設定にあたってとくに専門家の意見を聞いてはいない
・税務署の不動産鑑定評価額は7,090万円
・裁判所の不動産鑑定評価額は4,513万円

この土地は土地区画整理事業施工中で、仮換地指定が行われていないという特殊な状況のため、鑑定評価額が大きく変動していますが、最終的には裁判所の鑑定評価額4,513万円と売買金額1,500万円の差額がみなし贈与として買主に贈与税が課税されました。

この点、買主は、売主は親族関係もない完全な第三者で、第三者売買なら恣意性が介在しないのでその契約金額が時価のはずだし、贈与を受けた認識も無いし、租税回避の意図もなかったと反論したわけですが、裁判所は以下のように示しています。

さいたま地裁平成17年1月12日判決

相続税法7条は著しく低い対価によって財産の取得が行われ、その担税力が増加したと認める状況があればよく、「財産の譲渡を受けた者」が相続予定者等の譲渡人と親族関係にあることを要せず、財産又は対価と時点の差額分を無償で譲り受ける意思や租税回避目的も要しないものと解すべきである。

(中略)

したがって、本件においても、原告の贈与石又は租税回避の目的を問うことなく相続税法第7条妥当性を検討すべきであって、原告が売主と何ら親族関係が無いこと又は原告に贈与石や租税回避の目的が無いことをもって本件には相続税法第7条が適用される前提を欠くとする原告の主張には理由が無く、採用できない。

 

要するに、みなし贈与の発動は、

・個人間で
・時価よりも著しく低い金額で資産の売買が行われた

という条件を満たせば発動するということですね。

取引当事者の関係や租税回避や贈与の意図など一切関係なく、純粋に資産の時価と売買金額を比較して決めますということです。

 

極端に低い売買金額を設定する時に要注意

このみなし贈与については、「時価」と「著しい金額」の解釈が非常に複雑なので、その解説は別記事にしようと思います。

最近は地方の不動産は負動産などとも言われ、タダでも引き取ってくれないかと言われている状況になっていたりします。

ですから、戸建てを極端に低い金額で購入することもあるでしょうし、極端に低いといってもその金額でしか実際買い手がつかないというようなこともあるでしょう。

ただ、そういったケースにおいては、なぜそのような金額が売買上設定されたのかを、合理的に説明できるようにしておく必要があるでしょう。

というのも、日本において、不動産は基本的に価値があるものだという前提があるように思います。

全国津々浦々すべての不動産に固定資産税評価額が付されているのは皆さんご存じの通りですね。

最近、特に田舎に行ったりすると、到底そんな値段で売れないような金額が固定資産税評価額としてついていたりします。

本来、固定資産税評価額は公示地価など時価の70%程度をめどに作成されているはずです。

しかし、その金額では到底売れないような不動産は日本に無数にあるでしょう。

固定資産税は地方自治体にとって非常に重要な財源です。

地方自治体の税収に占める割合は50%を超えています。

そして、固定資産税の基礎になる固定資産税評価額は、時価の70%程度となるよう調整されているタテマエです。

ですので、不動産の価値が無いという状況を認めると、固定資産税評価額が小さくなってしまいますよね。

そうすると自治体にとっては重要な財源を失うことになるわけです。

一方、実際に不動産が価値を失っている現実があるわけです。

このように、不動産の価値が失われている現実と、不動産の価値が失われていないというタテマエが存在しているので、格安での不動産売買には注意が必要になってくるわけです。

今後、ますます格安での不動産の取引というものは増えてくるでしょうが、このように思いもよらない課税リスクがあるので、注意しましょう。

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