団体信用生命保険で不動産が生命保険代わりになるか?

不動産投資におけるセールストークの一つに、

「団信をつければ生命保険代わりとなり、残されたご家族の生活補償になる」

というものがあるでしょう。

これは、本当にそうなるのでしょうか?

場合によってはそうはならないのではないかと考えています。

団信付きで生命保険代わりになる理由

通常、収益用不動産を購入するには借り入れを伴います。

もし仮に、現在のオーナーが死亡した場合、その物件と同時に借入金も
相続することになります。

もちろん、物件も一緒に相続するので、家賃収入は継続することになりますが、
何もわからないご家族に収益不動産の運営がいきなり任せられることになるのは
いかにも負担が大きいです。

しかし、借り入れがあるので、なれない収益不動産の運営に取り組まざるを得ません。

相続放棄すれば良いとも言えますが、この場合一切の財産を同時に放棄するので、
これからの生活があるご家族にとっては厳しい話です。

ここでこの借入金に団信が付いている場合、現オーナーの死亡とともに、借入金が
弁済されることになります。

結果として、ご家族は借入金を引き継ぐ必要が無い一方で、物件は引き継ぐことができます。

このため、ご家族は家賃を受け取ることができる一方で借り入れの返済は無いので、
かなり余裕のある運営をできることになります。

このため、将来の家賃収入のみがご家族に引き継がれ、その生活を支えるという点で、
生命保険の代わりにすることができるというわけです。

これ自体の理屈は間違いではありませんが、設計次第では当初の目的を達せられない
恐れがあります。

団信付きだと、本来不要な相続税が発生する恐れ

ここで、相続税の計算方法を見てみましょう。

債務に団信が付与されていない場合

簡単にいうと、財産額から債務額を差し引いて、その差額である
正味財産に対して相続税がかかるという感じです。

ここで、財産額から債務額を差し引くという点がポイントです。

通常、借入をして不動産を購入している場合、相続税評価上は以下の
ようになっているものです。

物件価格と同額か、それを下回る借り入れを行うはずですので、
財産額が財務額を下回っている状態が不思議かもしれません。

これは、債務が借入金額である一方、財産である物件は、土地は路線価、
建物は固定資産税評価額で再評価されるためです。
おおむね物件価格の6~7割程度が相続税上の物件評価額となります。

このため、路線価以下で購入した超割安物件でも無い限り、相続税の計算上は、
このような債務超過状態となるわけです。

ではどうなるかというと、この状態では基本的に相続税はかかりません。

相続税は先程記載した通り、財産から債務を差し引いた正味財産に課されます。
この状態は、正味財産がマイナス(債務超過)ですので、相続税は課税されないのです。

債務に団信が付与されている場合

債務に団信が付与されている場合、以下のようになります。

団信によって、借入金は完済されますので、財産だけが残るという訳です。

ではどうなるか?この状態では、物件という財産がありますので、相続税
が課税されることになります。
債務がありませんので、物件がまるまる正味財産となります。

例えば、時価にして2億円の物件をフルローンで購入していた場合、
概ね1億数千万円程度の相続財産が発生することになります。

手元に現金がない場合は、相続税の納税のためにこの物件を処分しなければ
ならない事態も生じかねません。

そして残念なことに、知識のないご家族が売りに出し、さらに売却を急いでいる
ということになると、ある程度は買い叩かれる結果となるでしょう。

もちろん、相続税には基礎控除がありますし、配偶者控除として1億6千万円までの
財産は課税されないなどの緩和措置がありますので、このような事態にはそうそう
ならないでしょうが、可能性としては十分ありうる話です。

本当に生命保険代わりにしたいなら、綿密な設計が必要

このように見ていくと、団信が生命保険代わりに有効に機能するためには、
緻密な事前の計算が必要になるとうことはご理解いただけるかと思います。

購入する物件以外の財産がどの程度あって、また団信により債務がゼロとなった
状態だと財産がどの様になるのか。
また、それをどのように遺産分割する予定なのか。

この辺りをきっちりと詰めてこそ、団信も生命保険代わりに機能することに
なります。

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